領得の対象に関する錯誤 : 客体の具体化の程度

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タイトル別名
  • Der irrtum über den Gegenstand von Zueignung der Grad der Konkretisierung des Objekts
  • リョウトク ノ タイショウ ニ カンスル サクゴ キャクタイ ノ グタイカ ノ テイド

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抄録

P(論文)

窃盗や強盗において行為者によって追求された財物が、実際に奪取した容器の中に存在しなかった場合、ドイツの通説によれば、強盗罪あるいは窃盗罪の未遂が認定される。つまり、奪取あるいは領得の対象に関する錯誤は、強盗罪あるいは窃盗罪の主観的構成要件を阻却するとされているのである。しかしながら、近年、容器の中身に関する錯誤は重要でないと判断され、既遂所為による処罰が認められるとした、LG Düsseldorfの判決が登場した。同裁判所はBGH及び支配的見解に対して「後まで残る疑念がある」と批判し、容器の中身に関する錯誤は故意を阻却しないと判示したのである。  このような、容器の中身に関する錯誤の問題について、本稿は、従来のBGH及び学説を検討し、LG Düsseldorfの判決に考察を加えた。その上で、かかる判決の根拠づけを試みるBöseの見解を概観し、検討した。Böseは「容器」を自動車爆殺事例のような古典的な離隔犯事例とパラレルに考えて、容器の中身に関する錯誤を客体の錯誤の事案と見なす解決策を呈示した。本稿は、ドイツの通説である具体化説の例外である離隔犯と見なすのではなく、具体化説そのものの意義から考察を始め、容器の中身を盗む場合には、実際の実行行為、すなわち「奪取」の客体たり得るものを最低限度具体化すればよいのであると結論づけた。したがって、奪取行為が向けられるのは「容器」であるから、そもそも行為者は「容器」のみを最低限度具体化すればよいと解し、また、財産罪の特性に着目したHillenkampの見解も検討し、そこから日本への示唆を得た。そして、本稿は、本件で問題となる客体の具体化を、窃盗罪・強盗罪の構成要件に規定される奪取行為の客体となり得る最低限度のもので足りると結論づけている。

収録刊行物

  • 嘉悦大学研究論集

    嘉悦大学研究論集 59 (2), 39-53, 2017-03-15

    小平 : 嘉悦大学研究論集編集委員会

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