アフリカの手話言語

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タイトル別名
  • The Sign Languages of Africa
  • アフリカ ノ シュワ ゲンゴ

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抄録

ろう者の手話は、ろう者たちの集まりの中で生み出され、そのコミュニティの世代間で伝承されていく視覚的な自然言語である。人類の言語と文化一般に関する理解を深めるためには、手話言語とろう者の文化に関する研究が欠かせないが、アフリカの手話言語に関わる研究は少なく、それらの概要をまとめた文献もない。本論はアフリカの手話言語に関する大まかな見取り図を描き、今後の研究課題を整理することを目的として書かれた。筆者が作成した「アフリカの手話言語地図」を示すとともに、フィールドワークと文献研究を通して得られたデータを分析し、以下の各点を指摘する。<br>(1) アフリカには少なくとも23種類の手話言語が分布している。そのほとんどは国名を冠した言語名を持ち、民族名によって命名されてはいない。23の手話言語の中には、アフリカで生まれた固有の手話言語と、外来手話言語に由来する手話言語とが含まれている。これら23言語以外にもアフリカ大陸にはいくつものろう者の手話言語が分布しており、カメルーンで観察された「フランコ・アメリカ手話」もその一つである。これはアメリカ手話の導入に伴って成立した一種の混成言語で、西・中部アフリカの国々のろう者の間で話されている。これら手話言語のいくつかは、音声言語とはまったく関係ない分布を示している。<br>(2) アフリカには、主として欧米から多種類の手話言語が導入されてきた歴史がある。少なくとも13種類の外来手話言語が27ヶ国に導入された。ただし、これらの導入のほとんどは西欧諸国による植民地支配とは関係がなく、アフリカ諸国独立後のろう教育の普及と関わっている。とくに、アメリカと北欧諸国の手話言語の導入事例の多さが目立つが、これらは手話言語を積極的に活用するろう教育を進めていることで知られる国々であるという共通した特徴がある。<br>(3) カメルーンの都市部のろう者コミュニティにおいては、多様な民族的出自を持つろう者たちが、単一の手話言語を共有して話している。カメルーンは多民族で構成される社会であるにも関わらず、ろう者たちにおいては民族ごとに異なる手話言語を話すことはなく、民族ごとに細分されたアイデンティティをもつ様子も見られない。<br>これらから「ろう者たちは、アフリカの言語的・民族的多様性に関わりなく、国を単位とした新しいコミュニティを形成している」(ナショナル・デフ・コミュニティ) というモデルを提示する。終わりに、手話言語の自律的な動態を念頭に置きつつ、「アフリカのもう一つの言語文化世界」への理解を深めるために必要な将来の研究を展望する。

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