嗅覚障害における閾値上検査に関する研究

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  • キュウカク ショウガイ ニ オケル イキチ ジョウ ケンサ ニ カンスル ケンキュウ
  • [Supra-threshold-stimulus test in olfactory disorders].

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抄録

1. 目的<BR>聴覚検査においては最小可聴閾値の測定のみならず, 障害部位診断のためのいくつかの鑑別診断法がすでに確立されているが, 嗅覚検査においては, 後者の部位診断のための検査法は今日なお未解決の点が多く, 聴覚検査ほどには一般的に確立された方法がほとんどみられない現状である. さらに最近の交通災害の激増は頭部外傷後遺症としての嗅覚障害症例の増加をもたらし, これら嗅覚障害の認定, 治療方針の決定などとも関連してその部位診断の必要性は日毎に増大している. ここに私は最も一般的で簡便な嗅素ビン検査法で, 嗅覚の閾値上検査, 主として相対的識別閾の測定により, 嗅覚障害の部位診断の可能性について検討した.<BR>2. 実験法<BR>アリナミン注射液の等比級的稀釈液によるアリナミン嗅素ビンを使用し, まず最小可嗅閾値, すなわちにおいを識別できる最小量を測定し, 続いて相対的識別閾の測定を行なった. 嗅覚障害の程度を示す基準としては便宜的に, 最小可嗅閾値0.05%から0.4%液を軽度嗅覚減退者, 0.5%から4%液を中等度嗅覚減退者, 5%以上を高度嗅覚減退者, 原液でもかぐことができない者を嗅覚脱失者と分類した. また相対的識別閾の測定には, 0.1%, 1%, 10%各液を基準とし (基準嗅素液), 各々の基準嗅素液との濃度差をはじめて識別できる最小濃度を求めて, 各基準嗅素液に対する識別値とし, 識別値と基準嗅素液との濃度差 (識別閾) の基準嗅素液濃度に対する割合を相対的識別閾とした. 実験対象は以下に示すごとくである.<BR>1) 実験的末梢性嗅覚障害<BR>(1) 実験的呼吸性嗅覚障害<BR>(2) 実験的嗅上皮性嗅覚障害<BR>2) 嗅覚障害臨床例<BR>(1) 鼻副鼻腔疾患による嗅覚障害<BR>(2) 刺激性嗅物質による嗅覚障害<BR>(3) 中枢性嗅覚障害と思われる, 頭部外傷後の嗅覚障害<BR>3. 結果<BR>1) 障害程度が中等度以下の場合, 中枢性嗅覚障害は末梢性嗅覚障害に比して, 相対的識別閾が著しく大きい.<BR>2) 末梢性嗅覚障害では, 障害原因 (呼吸性または嗅上皮性) によつて相対的識別閾に差は生じないが, 障害程度が高度になると, 相対的識別閾は大きくなる.<BR>3) 中枢性嗅覚障害と末梢性嗅覚障害の高度のものとの間では, 相対的識別閾に有意の差は認められない.<BR>4) 高度嗅覚障害例では, 経静脈性嗅覚検査を参考にして, その持続時間が15秒以下に短縮しているものは, 中枢性障害を考えるべきであろう.<BR>5) 障害程度が中等度以下の, 鼻副鼻腔疾患による嗅覚障害および刺激性嗅物質による嗅覚障害は, 末梢性障害であろうと推測される.

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