腹腔内細胞とくに癌性腹水における臨床細胞学的研究

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  • フクコウ ナイ サイボウ トクニ ガンセイ フクスイ ニ オケル リンショウ サイボウガクテキ ケンキュウ

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抄録

今日の医学で最大の関心は癌についてであるが,科学の進歩にかかわらずその本態は未だ解明されるにいたらない。癌は,「人」の生存の権利を防害し,破壊しつくそうと構えている宿敵ともいえる。この本態不明な疾患は,残念ながら予防は不可能であり,医師に残されている手段は治療医学的方策にすぎない。その中で臨床外科医は早期発見および手術が最良の治療法であることを認識し,またそれが使命であると心得て努力を続けているわけである。早期診断が成功し術後,永久治癒を確認した時の外科医の心境は筆舌に尽しえない。その早期診断に不可欠の臨床検査法の1つに,細胞学的診断法いわゆる細胞診が用いられている。現在の細胞診は,おもにスメア法とパラフィン切片法によって行われており,ことにスメア法(塗抹固定染色法)は剥離細胞診とは不可分である。染色法,鏡検法などによりその手技の簡易性,診断陽性率およびその信頼度が異るものであるが,いずれの手段を用いるにせよ細胞診には悪性細胞にたいする精密な判定基準が必要とされる。1928年にZemanskyにより当時としては驚くべき精度をもった基準が提案されたが,その後,多数の研究者により詳細な基準が発表され,今日の基礎になっている。<br> 近年,電子顕微鏡的研究による細胞の微細構造の把握が広く普及し,しかも臨床医学的に応用される機会が多くなる傾向にある。著者は従来の光学顕微鏡による研究と比較しながら,電子顕微鏡的に癌細胞と良性細胞の比較研究を行い,興味ある知見を得た。<br> 著者の研究はPapanicolaou class IIIの異型性を中心とした疑問に端を発している。疾患の良・悪性の診断は細胞の良・悪性の鑑別からはじまるが, Class IIIの細胞が,“悪性”か否かは観察者の判断にかかるものである。この従来の判定基準を高い精度で細胞の微細構造の面で捉えることを期待して研究し,ここに発表する成績を得た。<br> 研究は人の腹水細胞について行われ,とくに鑑別が最も困難とされる単球様細胞,漿膜細胞および癌細胞の3種の鑑別に重点をおいて観察したものである。塗抹染色による診断は迅速に行える利点があるが・陽性率を高めるためには電顕的検査が望ましい。従来長時間を要した電顕用準備は技術的に短縮させることが可能で,本研究に応用したとおりである。腹水の場合は良・悪性いずれによるものかによって治療法,予後が異ってくるものであるが,この電顕的診断法は他の剥離細胞にも大きな臨床診断的価値をもって,広く利用されうるものと考える。<br> 著者が結論とするところは・現在利用されている光学的判定基準に,電顕的癌細胞判定基準を加えたことであり,次のような提案を行うものである。<br> 1) 細胞の偽足様突起および細尖突起の存在, 2) 細胞質内細線維束構造, 3) 核膜弯入による核の葉状構造, 4) 細胞質の電子密度の高い基質, 5) cristaeをもつ糸粒体の小型化, 6) 細胞接触面の不規則なinterdigitation, 7) 封入細胞の存在,などをもって鑑別点とすることができる。

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