内臟寄生蟲特に蛔蟲の有毒成分アスカロン(Askaron)及其生理的作用に就て

書誌事項

タイトル別名
  • Ueber das Askaron, ein toxischer Bestundteil der Helminthen besonders der Askariden und seine biologische Wirkung
  • 第一報

抄録

從來内臟寄生蟲の其宿主に及ぼす障碍は、器械的作用及營養質奪取に起因する外、或種の寄生蟲に在りては、有毒物質を生産し一層其有害作用を逞ふするものと認められたるも、未だ寄生蟲病諸汎の現象を説明するに足る主要毒成分の檢索を遂げたるものなし、著者は蛔蟲の自然寄生に際し、或は蟲體體腔液及蟲體水浸液の注射に由て發する症状を誘起す可き主要の有毒成分は、著者がAskaronと命名せる有毒性のAlbumose-Pepton質なるを證明し且つ之を體腔液竝に蟲體乾燥粉末より分離製出せり。尚ほ該有毒質の分布は極めて廣く、其他各種内臟寄生蟲(Filaria immitis, Oxyuris curvula, Sclerostomum vulgare, Trichocephalus depressiusculus, Gastrophiluslarve)にも同一の作用及毒力を有するAskaronの存在を證明せり。<br>Askaron注射の主要の中毒症状は末梢血管の擴張、呼吸障碍、分泌及排泄増加、神經障碍、體温及血壓下降等にして其耐過後にありては迅速に比較的高度の抵抗性を生ず、而して該抵抗は各種蟲體の毒成分間に相互共通なり。解剖的變状は肺氣脹(海〓)、消化管、心内膜及其他内臟實質内(殊に肺)の出血及浸潤(馬及犬)竝に血液凝固不全等にして、其致死量は體重一kgに對し馬〇•〇〇四mg海〓〇•八mg犬二•〇mg兎五•〇mgなりとす、尚ほAskaron稀溶液(〇•一‰を以て馬に點眼するに強度の眼反應を惹起し其成績は殆んど百%陽性に達せり。<br>以上の中毒症状、解剖的變状、抵抗性の發生等は過敏性「シヨツク」に酷似するを以て、著者はAskaron中毒と過敏性「シヨツク」との關係を闡明せんと欲し、先づAskaronのprimärtoxischなるを證明したる後、過敏性「シヨツク」樣症状を誘起するHistamin, Methylguanidin, Peptonum Witteに比較し相互の差異を認め、次て所謂Anaphylatoxinとの鑑別を試みんが爲、血清抗過敏性とAskaron抵抗との共通程度を檢せるに其度著しく微弱にして、Askaron抵抗に比すべくも非らざるを知り、Askaron抵抗は細胞特異性抗抵と非特異性抵抗(共通の)の二部より成立するを認めたるも、未だ本問の解決に達せず。該細胞特異性抵抗は著く高度に達し得るものにして、馬に在りては増量注射により致死量の四百倍以上に耐過せしむるを得べし、而して免疫馬血清はAskaronに對し補體轉向作用及沈澱反應を成立せしむ可き抗體を含有するに至るも、未だ液性免疫の成立を證明するを得ず。<br>著者はAskaronの性状及作用が著くAnaphylatoxinに酷似せる點に鑑み、血清抗過敏性も亦Friedbergerの特異抗過敏性及非特異抵抗の外、比較的強力なる細胞性特異抵抗を生ずるものならんかを推論せり。

収録刊行物

  • 中央獸醫會雑誌

    中央獸醫會雑誌 29 (7), 431-474_1, 1916

    公益社団法人 日本獣医学会

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