鈍的胸部大動脈損傷に右鎖骨下動脈損傷を合併した1例

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タイトル別名
  • A Case of traumatic injury to the thoracic aorta and right subclavian artery

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抄録

症例は58歳の男性。バイク運転中に停車中の自動車に衝突し,救急隊により初期評価で意識障害(JCS 100)を認められたためload and goと判断され当センターに救急搬送された。来院時,患者に意識障害(JCS 10)を認めたが,focused assessment with sonography for trauma(FAST)陰性,血圧は安定しており外出血は認めなかった。胸腹部造影CTで胸部大動脈損傷と右鎖骨下動脈損傷を認めた。頭部CTで明らかな出血はなかったが,遷延する意識障害を認めたため,いつでも手術可能な準備を整えたうえで,塩酸ニカルジピン(ペルジピン)の持続静注,βブロッカー(テノーミン)の内服を行い,収縮期血圧120mmHg以下で厳重な血圧管理のもと大血管損傷部位に対して待機手術を選択した。受傷翌日の頭部CT検査で頭蓋内病変がないことを確認した後,まず胸部大動脈損傷に対し左前方腋窩開胸による人工血管置換術を施行した。右鎖骨下動脈損傷部位に対して同一視野でのアプローチは困難であり,CTにて形態,サイズの変化に注意しながら集中治療室管理とした。第 6 病日に胸骨縦切開に右鎖骨上横切開を加え,仮性動脈瘤切除術と両腋窩動脈バイパス術を施行した。術後合併症なく,第14病日に近医へ転院となった。一般的に外傷性胸部大動脈損傷は緊急手術の適応であるが,他臓器の損傷を伴う場合,治療の優先順位に苦慮する。意識障害を伴った本症例では,ヘパリンを必要とする人工血管置換術中の出血のリスクを避けるためにも待機手術の選択が有用であった。また外傷性大動脈損傷に鎖骨下動脈損傷を合併することは稀であるが,第 1,2 肋骨骨折や肩関節脱臼の有無に関係なく,胸部に高エネルギー外傷を伴った場合は,大動脈や心臓に加え分枝血管の損傷にも注意を要する。

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参考文献 (16)*注記

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