骨格筋断裂の修復過程

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抄録

〔はじめに〕骨格筋の断裂,いわゆる肉離れは,理学療法の対象疾患の1つであるが,その修復・再生過程は十分に解明されておらず,治療法も確立されていない。骨格筋線維の壊死は一般的に局所的に生じ,その際に壊死と非壊死領域間に境界膜が形成されることが先行研究で報告されている。しかしながら,境界膜の形成に関する先行研究は非常に少なく,また臨床的な損傷原因とはかけ離れた薬物や冷却による損傷動物モデルが使用されている場合もある。そこで本研究では,より臨床的な骨格筋裂傷動物モデルとして骨格筋線維を切断し,断端付近に起こる形態的変化を光学・電子顕微鏡を用いて経時的に観察した。〔材料と方法〕10-11週齢のddy系雄マウス18匹を用い,ネンブタールを腹腔内に投与して麻酔し,左下腿前外側部を剃毛した後,皮膚に縦切開を加えて前脛骨筋を露出し,脛骨粗面の遠位4mmでカミソリ刃を用いて横切断した。横切断は,前脛骨筋のほぼ全幅,約2/3の深さにわたって行った。筋切断後ただちに4-0シルク糸で皮膚を2針で縫合した。筋切断から1,3,6,12時間,1,2,3,5,7日後に各2匹ずつマウスを麻酔し,4%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドの混液で灌流固定し,左前脛骨筋を取り出して,さらに24時間浸漬固定した。その後,切断付近を細切して,1%四酸化オスミウムで後固定,アルコール系列による脱水を経て,エポキシ系樹脂に包埋した。準薄切片を作製し,1%トルイジンブルーで染色して光学顕微鏡で観察した。また,同部位を電子顕微鏡で観察した。〔結果〕(1)光学顕微鏡学的観察:1時間後,筋線維の空胞化は観察されたが,明白な壊死領域は観察されなかった。3時間後,筋線維は壊死領域を有し,一部の筋線維では非壊死領域との分離,あるいは境界が観察された。6時間後では,多数の筋線維において,壊死と非壊死領域の分離,境界が観察された。(2)電子顕微鏡学的観察:3時間後から壊死領域と筋フィラメントが残存している非壊死領域の間に,球形のミトコンドリアが多数集積していた。さらに,ミトコンドリア集積部と非壊死領域との境界の一部では,膨化した筋小胞体が複数観察された。また,壊死領域と非壊死領域の境界部に,すでに細胞膜が形成されている筋線維も観察された。〔考察〕損傷された骨格筋では断端付近のアクチン・ミオシン細糸は消失し,代わって多数のミトコンドリアが集積してくる。これは損傷部を最小限にとどめようとする防御反応である可能性がある。また,ミトコンドリア集積部とアクチン・ミオシン細糸の間に境界膜が形成されるようであり,これは筋小胞体に由来する可能性がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680539518464
  • NII論文ID
    130004577131
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.47.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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