熱中症により小脳性運動失調を呈した1症例に対する理学療法の経験

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抄録

【はじめに】熱中症とは40度を超える急激な体温上昇と意識障害を主とする中枢神経障害及び多臓器不全を示す病態であり、重症例では致命率が12%に達する。48時間以上の意識障害を伴う例においては、高率に小脳症状を後遺症として残すとされているが、理学療法士の立場から長期に経過を追った報告は少ない。今回、熱中症により小脳性運動失調を呈した症例の理学療法(PT)を経験し、歩行能力に著しい改善を認めたため、これを報告する。<BR>【症例紹介】43歳男性。15歳時の交通事故により硬膜下血腫を受傷(減圧開頭術施行)し、後遺症として症候性てんかん及び軽度知的障害を認めていた。発症当日、日中の伐採作業中に意識消失し、当院に救急搬送された。入院時JCS300、直腸温41.9度、収縮期血圧60mmHg、脈拍140回/分、動脈血酸素飽和度83%(4L酸素投与)であった。熱中症の診断のもと、直ちにクーリング及び人工呼吸が開始された。第2病日にはDICと多臓器不全を合併した。<BR>【PT開始時評価とPTプログラム】全身状態の安定した第25病日からPTを開始した。開始時、四肢には右側優位の測定過大と反復拮抗運動障害を認め、体幹協調機能ステージは2であった。開脚立位保持は10秒可能であったが、閉脚立位保持及び歩行は困難であった。筋力は徒手筋力検査(MMT)にて体幹筋3、股関節周囲筋3、その他4レベルであった。以上の評価結果から、協調性・筋力・バランス能力の低下に対しPTを施行した。協調性の低下に対しては、リズミックスタビリゼーション(RS)を中心に、四つ這い移動、kneeling等を施行した。またセミリカンベント式エルゴメーターにて50回転でのアイソキネッティック運動を施行し、股関節周囲筋の筋力強化と協調性の改善を図った。バランス能力の低下に対しては、バランスボールを用いた重心移動練習、四つ這いでの対側上下肢挙上練習、立位での輪移し練習等を施行した。歩行練習は、1週目は平行棒内にて、2週目はpick up walkerを用いて、3週目は独歩(軽介助)にて施行した。<BR>【経過】退院時(第52~54病日)の評価結果では、四肢には依然として失調症状を認めたが、やや改善傾向にあった。体幹協調機能ステージは2と著変なかったが、開脚立位保持は60秒と延長し、閉脚立位保持も5秒可能となった。歩行はpick up walkerを用いて屋内自立となり、階段昇降は四つ這い(昇り)と座位(降り)を用いて自立した。MMTでは体幹筋4、股関節周囲筋4レベルと改善が認められた。第55病日に退院し、その後外来での週1回のPT継続により、3ヶ月後には独歩にて屋内自立となった。<BR>【まとめ】熱中症による小脳性運動失調にて歩行が困難であった症例において、協調性・筋力・バランス能力の低下に対しPTを施行した。これにより筋力及び立位バランス能力に改善を認め、3ヶ月後には屋内歩行の自立に至った。本症例の歩行能力の改善には、RSを中心とした協調性練習、筋力強化、バランス練習が有効であった。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), B0050-B0050, 2006

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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