環境のレイアウトや作業手順が行為に及ぼす影響
抄録
【目的】マイクロスリップは行為中に観察される円滑でない無自覚な手の動きを指し、行為に柔軟性を与えると考えられている.また環境に物が多いと出現頻度が多く、物の配置換えや同環境での繰り返し行為で減少すると言われている.出現頻度が少ないと、健常者では行為選択が限定された行為の円滑な遂行を意味する.今回、行為選択の限定要因として、基本条件に加え作業手順の強制的な意図、環境の視覚的特徴変化、環境物品の被験者任せの配置の3条件でマイクロスリップの出現頻度を測定し検討したので報告する<BR>【対象】本研究の趣旨を説明し了承を得た健常成人男性15名女性13名(平均年齢25.2±5.9)を無作為に4グループ、各グループ7名に振り分けた.<BR>【方法】テーブル上に、インスタントコーヒーを作る材料(コーヒーとクリームの粉、砂糖)・道具(紙コップ、スプーン等)と5種の菓子(クッキー、アメ等)、課題内容と無関係な4物品(紅茶、小麦粉等)を定位置に配置した.材料や菓子は別々に同じ紙の椀に入れ容器の区別を困難にした.この環境でクリームと砂糖を入れたコーヒーを作り、好きな三種の菓子を選び取るといった課題を以下の4条件に設定し行ってもらった.課題1:操作を加えない基本的な環境条件. 課題2:遂行前に行為の流れを強制的にイメージ、手順を筆記.課題3:環境の全物品に文字でラベリング.課題4:遂行前に被験者任せの物品配置換え.被験者は該当した課題を一回施行、右側および左側上方からビデオ撮影後、遂行過程を繰り返し観察し解析した.解析方法の詳細は、Schwartzら(1991)が提唱した行為コード化システム※に基づいて行い、並行して行為中のマイクロスリップをカウントし、三人の検者が一致した見解を示したもののみ採用した.得られたデータは課題毎に平均値と標準偏差を算出した.※行為コード化システム:基本ユニットは、物の状態変化を1つ含む運動で「コップを取る」等である.基本ユニットが集まり、課題のサブゴールが成立する.「コップに水を汲む」等である.これらサブゴールが集まり、「歯を磨く」といった課題につながる.<BR>【結果】課題1:平均14.6±7.2/回、課題2:平均13.4±6.2/回、課題3:平均9.9±5.3/回、課題4:平均8.7±5.2/回と課題3と4でマイクロスリップが少ない出現傾向となった.<BR>【考察】被験者課題別比較で、課題1と2より課題3と4でマイクロスリップ数が減少した.今回の結果からは、行為手順を意図したり言語化して意識するより、環境に配慮した方がマイクロスリップの出現に大きな影響を及ぼす傾向となった.だが、各課題被験者間内にばらつきがみられた.この理由は、課題と同類行為を繰り返している等の生活習慣関与の可能性が考えられた.この点に配慮し、今後も検討を重ね臨床につなげていきたい.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), A3P1011-A3P1011, 2009
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205567933952
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- NII論文ID
- 130004579864
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可