靴ひもの締め方の強弱が歩行に及ぼす影響
抄録
【目的】<BR>日本では靴の着脱の機会が多いため,靴ひもを締める強さは靴の着脱の容易さを優先して決めることが多い.そこで,本研究では靴ひもの締め方の強弱により適合性に変化を与え,その変化が歩行にどのような影響を及ぼすかを床反力計と三次元動作解析装置を用いて解析し,靴ひもの締め方の強弱を加味した効率的な歩行獲得の際のアプローチの一助とすることを目的として行った.<BR>【方法】<BR>被験者は健常成人男性10名(身長173.06±4.74cm,体重61.31±3.49kg,年齢21.6±1.4歳)であった.実験に先立ち被験者には研究目的と実験内容を十分に説明し,書面による同意を得た後に実験を行った.なお,この研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行った.被験者は靴ひもがゆるい条件(以下,条件L)と,きつい条件(以下,条件T)での歩行をそれぞれ5試行ずつ,普段歩く速度で行った.靴は普段使用している室内用の靴を使用した.条件Lは18.6Nの力で靴の踵部分を下方向に引っ張った際に靴が脱げる程度に靴ひもを締めた条件とし,条件Tは49Nの力でひもを引っ張り靴ひもを結んだ条件とした.計測には,被験者の身体の各標点(臨床歩行研究会の定める)に反射マーカーを貼付し,三次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製),床反力計2枚(AMTI社製)を用い,右足踵接地から左足つま先離地までのデータを収集し,平均歩行速度,蹴り出し時の下肢関節角度,関節モーメント,関節周りのパワーを算出し,条件Lと条件Tで比較した.<BR>【結果】<BR> 蹴り出し時の足関節周りのパワーの最大値は条件Lで200.5±28.2W,条件Tで208.0±26.0Wと条件Tで有意に大きく(p<0.05),足関節最大底屈角速度も条件Lで4.6±0.7 rad/s,条件Tで4.9±0.6 rad/sと条件Tが有意に速かった(p<0.01).toe off時の足関節最大底屈角度は条件Lで36.4±4.7°,条件Tで38.5±5.7°と条件Tが有意に大きかった(p<0.01).蹴り出し時の股関節周りのパワーの最大値は条件Lで87.6±24.7 W,条件Tで79.8±22.1Wと有意差は認められなかった.また平均歩行速度は条件Lで120.4±9.0cm/s,条件Tで122.6±10.4 cm/sと条件Tが有意に速かった(p<0.05).<BR>【考察】<BR> 条件Lでは足関節最大底屈角速度と足関節最大底屈角度が小さくなっているが,これは靴が脱げないようにするためであると考えられ,これにより足関節周りのパワーも小さくなったといえる.つまり,条件Lでは靴と足背に空間が生じ,甲の押さえが不十分となり,蹴り出しの力が効率的に伝わりにくいことが示唆される.また,股関節周りのパワーには有意差は認められなかったが,条件Lでは足関節周りのパワーの減少により,下肢の振り出しエネルギーの減少を股関節周りのパワーで補償しているのではないかということが推察された.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), A3P1101-A3P1101, 2009
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565967872
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- NII論文ID
- 130004579951
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可