酵素補充療法を施行したムコ多糖症2型(Hunter症候群)の理学療法と経過

DOI

抄録

【はじめに】ムコ多糖症2型(Hunter症候群)は,iduronate-2-sulfataseの欠損又は酵素活性の低下によりムコ多糖(デルマタン硫酸とヘパラン硫酸)が組織(リソソーム)内に蓄積することによって起こる,X染色体劣性遺伝の疾患である.これまでは対症療法主体で骨髄移植しか治療方法がなかったが,2007年10月に合成酵素補充療法が承認された.これは,リソソーム内に蓄積したムコ多糖を分解する働きを持ち,Hunter症候群の各症状を改善する根治療法として注目されている.<BR> 今回我々は,Hunter症候群の男児に対して酵素補充療法を行い,著明な症状改善を示した症例の理学療法を経験したので報告する.なお対象者と保護者には,ヘルシンキ宣言に準じて本報告の主旨とプライバシーが守られる事を説明し快諾を得た.<BR>【症例】11歳男児.3歳まで言葉の遅れはあったが,運動機能に問題はなかった.4歳時,四肢関節可動域制限,特異顔貌,肝脾腫,心肥大,低身長を認めHunter症候群と診断される.9歳時,咽頭・喉頭のアデノイド増殖のため鼻腔からの呼吸困難となり,アデノイド切除,扁桃摘出術を施行.10歳時,合成酵素補充療法により各症状が改善し,現在学校生活を送るに至っている.<BR>【経過】本症例にはHunter症候群の診断を受け,3年後の7歳時から介入した.この頃は四肢関節に拘縮を認めるが,歩行可能であった.発語はないが,感情の表出は可能であった.リハビリテーションでは,進行する関節拘縮の予防改善目的の可動域練習,自発運動促進目的のレクリエーション,日常生活評価,意思疎通練習を中心に介入した.8歳頃より,下肢の自動運動低下に伴い立位,歩行困難となる.9歳時に施行したアデノイド切除,扁桃摘出術直後は,術後の気道浮腫のため排痰困難となり,ICUでの呼吸理学療法を施行.呼吸・全身状態改善後,自宅退院に至るも,頸部筋力低下・舌肥大により舌根沈下・気道閉塞等の呼吸状態悪化,肝脾腫増大・体幹筋力低下により寝返り・座位困難となる.この頃より感情表出の低下も認められる.10歳11ヶ月より合成酵素補充療法が開始され,関節拘縮,肝脾腫,舌肥大等の症状軽減にともない寝たきり状態から改善.この頃より,関節可動域練習,頸部体幹筋力トレーニングと合わせて,環境調整目的に座位保持装置の導入,学校職員との面談を行い,自宅・学校にて座位生活を送るなど,ADL向上を認める.<BR>【考察】Hunter症候群の一般的経過として重傷例では,進行性の知的障害を伴って15歳頃には死亡する.本症例は9歳時に致死的状態に至るも,合成酵素補充療法により通学可能な状態に改善した.合成酵素補充療法に合わせて,理学療法を施行したことにより身体機能・ADLの向上を認めた.一方,中枢神経症状の一つである感情表出,発語に関しては変化が認められていない.今後,本症例の臨床経過を蓄積し,情報提供することで,同疾患患者・家族への一助となることを期待する.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), B3P1299-B3P1299, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566221696
  • NII論文ID
    130004580405
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p1299.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ