パーキンソン病の外科的治療前後における主観的・客観的変化について
抄録
【目的】パーキンソン病(以下PD)の外科的手術の中心となっている脳深部刺激療法(以下DBS)は2000年4月に保険適用が認められ,手術を選択する患者も増加している.今回,DBSが可能な当院での臨床成績について報告する.<BR>【方法】対象はDBS適応と判断され,本研究に同意されたPD患者12名(平均年齢58.3±7.4歳).刺激部位は視床下核8名,淡蒼球内節3名,視床中間腹側核1名.方法は術前後における客観的評価として,ON/OFF時にUPDRS-3,STEF,Timed up &Go test,10m歩行(前進・後進),寝返り,床からの立ち上がりの時間を最大努力下で測定し,1日のL-dopa服薬量を比較した.主観的評価として,評価者によるPD症状の変化と,対象者による満足度のアンケート調査を実施.統計学的処理は,対応のあるt検定および Wilcoxon検定を用い,危険率5%未満(p<0.05)を有意水準とした.<BR>【結果】客観的評価:ON時よりOFF時の運動遂行能力の改善が,より顕著であった.特にUPDRS-3,STEF,10m歩行(前進),Timed up &Go test,寝返り,床からの立ち上がりに有意差を認めた.しかしOFF時の歩行速度(後進)では変化は認めなかった.主観的評価:固縮,振戦に高い効果があり,無動,ジスキネジア,ジストニア,ON-OFFの差についても効果があった.姿勢反射障害では効果が少なかった.PD患者アンケートでは約75%が満足したと回答した.1日のL-dopa服薬量では,術後に平均125mg/dayの減量があった.DBSはPD症状,L-dopaを減じ運動遂行能力の向上をはかれ,主観的・客観的効果を得た.<BR>【考察】術前後の主観的・客観的効果は異常筋トーヌス,不随意運動,無動の改善による動作能力の向上であり,大脳皮質‐基底核ループにおいて刺激部位で過剰興奮が抑制され,大脳皮質の活動が回復したと考えられた.今回,PD症状が反映されやすいOFF時の評価において,歩行速度(後進)のみ効果を示さなかった.これはDBSが姿勢反射障害に与えた影響が小さく,PDの姿勢反射障害の原因となる神経ループ機構が,刺激部位と関連が少ない可能性が考えられた.また手術前からの姿勢・動作パターンが,DBS後も継続されていることも考えられる.いずれにしても1次的機能障害の改善,運動性の高まりが認められたことから,ある程度学習しやすい身体的環境が整ったものと考え,内発的でより高度な運動によって神経回路を賦活し,姿勢・動作プログラムの再構築する必要があると思われる.<BR>【まとめ】DBS前後の客観的・主観的評価を行ない,DBSはPDの有効な治療法の一つと考えられた.今後,継続した調査を行ないADL,QOLについても検討していきたい.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), B3P1313-B3P1313, 2009
公益社団法人 日本理学療法士協会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390282680542916224
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- NII論文ID
- 130004580419
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可