手関節掌屈における月状骨運動の特徴について

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  • ―超音波画像診断装置を用いての検討―

抄録

【はじめに】月状骨は手根骨近位列の中心に位置し、掌背屈運動の要として機能している.手根骨運動の解析にはシネラジオグラフィーを用いた報告が多い.しかし、この方法は装置の複雑さや被曝の問題など、我々理学療法士が拘縮の病態把握に用いるには現実的ではない.今回我々は、臨床において短時間かつ簡便に用いることができる超音波画像診断装置(以下エコー)を用いて、手関節掌屈時における月状骨運動の特徴について検討したので運動療法への応用を含め報告する.<BR>【対象】外傷の既往があり、明らかに可動域制限を認めた1関節を除く11名21関節(男性9名、女性2名、年齢27.6±4.0歳)を対象とした.対象者全てに対し本研究についての説明を行い同意を得た.<BR>【方法】使用したエコーはMEDISON社製超音波画像診断装置SONOACE PICOを用い、10.0MHzリニア式プローブにウォーターバッグを装着して使用した.手関節中間位にてリスター結節と第3中手骨底を結ぶ線上にプローブを垂直にあて、橈骨遠位端と月状骨の長軸像を描出した.これよりプローブを固定した状態で、他動掌屈運動を行った.この時の月状骨運動の画像はサーチ機能を用いて、中間位と掌屈位の違いについて比較した.橈骨遠位端上縁を通過する水平線をα、垂線をβとし、中間位の月状骨背側頂点とαとの距離をa、掌屈位の月状骨背側頂点とαとの距離をbとし、その差を垂直距離とした.また中間位で観察される月状骨尾側頂点とβまでの距離をc、中間位における尾側頂点が掌屈に伴い遠位へ移動した点とβまでの距離をdとし、その差を水平距離として計測した.統計学的処理にはpaired t-testを用い有意水準は5%とした.<BR>【結果】中間位aは2.0±1.3mm、掌屈位bは2.5±1.3mmであり、月状骨は統計学的には有意に掌側に移動した(p<0.01)が、その垂直距離はわずか0.5±0.8mmであった.中間位cは9.0±1.9mm、掌屈位dは14.7±2.5mmであり、月状骨は有意に遠位へ移動した(p<0.001).その水平距離は5.7±1.7mmであった.すなわち、掌屈に伴う月状骨運動は月状骨背側頂点としての垂直移動量はほとんど無く、遠位へ約5mm前後水平移動する回転運動であることがわかった.<BR>【考察】一般に月状骨は、手関節掌屈時凸の法則に従い背側へ滑ることで自身の関節面を掌側へ開き、有頭骨の運動範囲を拡大すると言われている.今回の結果より掌屈に伴う月状骨背側頂点の位置は極わずかに掌側方向へ移動していたが、その距離はわずか0.5mm程度であり、むしろ変化しないと捉える方が妥当である.この現象は掌屈に伴う背側橈骨手根靱帯の緊張によるものと考えられるため、掌屈制限に対する運動療法では、背側方向へ月状骨を操作するよりむしろ月状骨の垂直移動を一定に保ちつつ遠位に引き出す操作により、橈骨と月状骨を結ぶ背側橈骨手根靱帯に伸張を加えることが重要と考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), C3P3393-C3P3393, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544545792
  • NII論文ID
    130004580931
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.c3p3393.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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