圧迫療法を中心とした複合的理学療法

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タイトル別名
  • ―著明な上肢リンパ浮腫を呈した一例―

抄録

【はじめに】リンパ浮腫に対する治療として一般的に複合的理学療法が行われるが、中でも不可欠なのが圧迫療法である.浮腫を軽減するためには弾性包帯が使用されるが、くびれがみられるような重症例では難渋する場合もある.今回、そのような重症例に対して弾性包帯を巻く頻度を増やして実施した結果、短期間で良好な成績が得られたので報告する.<BR>【症例紹介】今回の発表について説明し同意を得られた82歳女性.昭和58年右乳房切除術(術式はハルステッド法)と腋窩リンパ節郭清、放射線治療施行.直後より肩が少し大きい印象あり.昭和62年子宮卵巣摘出手術施行.平成7年右上腕部の浮腫出現.平成15年右上肢全体に浮腫が拡大.平成17年浮腫が悪化、蜂窩織炎発症.この頃より浮腫による重苦しさ、動きにくさ出現、寝返りや歩行などの動作が困難になる.平成20年10月当院入院にて治療開始.入院時、リンパ浮腫の進行度は3期であった.周径計測は、上腕近位部34.3cm、上腕最大部56.7cm、前腕最大部51.8cm、手首31.2cm、手の甲27.8cmで、最大腫脹部位は前腕最大部で126.2%であった.視診では肘と手首にくびれがみられ、触診では前腕が特に硬くなっていたが全体に圧痕がみられた.主訴は右上肢の重さと自動運動困難であった.<BR>【治療プログラム】治療は浮腫が重度であったため、主な目標を早期の患肢サイズダウンとし、圧迫療法を中心に治療を開始した.くびれに対してスポンジを入れ込み食い込みにくい状態にした上から弾性包帯を巻き、その頻度を1日に朝、夕の2回に増やした.包帯を巻くのにかかる時間を短縮するため、1度巻いて緩くなった部分を確認し、その部分の圧を強めるように1、2本追加して巻き重ねる方法を試みた.リンパドレナージは硬くなっている皮膚や皮下組織をやわらかくほぐすことを中心に行った.運動については自動運動が困難であったため特に指示をしなかった.<BR>【経過及び結果】治療開始から7日後より肘、手首、指の自動運動が少し容易となる.10日後の計測では上腕近位部42.4cm、上腕最大部44.7cm、前腕最大部37.1cm、手首21.3cm、手の甲21.9cmで、前腕部の腫脹率は57.9%となり、浮腫は軽減した.視診ではくびれが浅く、皮膚のしわが多くなり、触診では全体にやわらかくなった.<BR>【考察】重度のリンパ浮腫では水分量が多く、圧迫により患肢の状態が変わりやすく、常に均等な圧を加え続けることは困難な場合が多い.今回は、夕方に包帯を巻き、翌朝緩んだ部分の圧を補強するために包帯を重ね巻くようにして、1日に2度圧迫力を調整したことで、52.9%の浮腫軽減効果を得ることができた.このことから緩んだ部分を補強する重ね巻きという方法の有効性が示唆された.約3年間続いた右上肢の重苦しさが10日で楽になったことから本患者のQOLは向上したと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), D3P2520-D3P2520, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680543750528
  • NII論文ID
    130004581119
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.d3p2520.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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