内包出血モデルラットにおける麻痺側前肢の強制使用が機能回復に及ぼす影響は運動タスクごとに異なる

DOI
  • 石田 章真
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経生理学
  • 飛田 秀樹
    名古屋市立大学大学院医学研究科脳神経生理学
  • 高松 泰行
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 濱川 みちる
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 玉越 敬悟
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
  • 石田 和人
    名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻

抄録

【目的】<BR> 近年、 constraint-induced movement therapy (CIMT) と呼ばれる治療法がその有効性から注目を集めている。CIMT は片麻痺患者の非麻痺側上肢を使用制限することで麻痺側上肢の運動を導出し、段階的なトレーニングを行うことで機能回復を導くことを狙いとする。しかし、脳損傷後における麻痺肢の強制的使用が生体に及ぼす具体的な影響については未だ不明な点が多い。本研究は内包出血後の麻痺側前肢の強制使用が前肢運動機能および脳傷害体積に及ぼす影響を検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR> 実験動物にはWistar 系雄性ラット(8 週齢、200-250 g)を用いた。全てのラットの利き手に対応する側の内包に、血管の基底膜を破壊する collagenase (15 units/ml, 1.4 ul, Sigma) を注入し出血を起こした。術後24 時間より、強制使用群 (n=8) のラットの非麻痺側前肢を自然な屈曲位で胸骨前に保持し、そのまま体幹ごとフェルトおよびギプス包帯にて拘束し、使用を制限した。なお麻痺側前肢は自由に運動できる状態を保った。対照群 (n=9) のラットは、内包出血後に体幹部にのみ同様の処置を行い、両前肢が自由に使用できる状態においた。この状態で術後 8 日目まで 7 日間通常飼育を行った。その後非麻痺側前肢の拘束を解除し、麻痺側前肢の運動機能を評価した。総合的な運動機能障害の評価は motor deficit score (MDS) を用い、1, 10, 26 日目に実施した。加えて術後 10-12 日目および 26-28 日目において single pellet reaching test、ladder test、cylinder test を実施し、麻痺側前肢のリーチ・把握機能、協調運動機能、自発的な使用率を評価した。運動機能評価終了後、ラットを深麻酔下で 4 % paraformaldehyde により経心的に灌流固定し、脳を取出した。その後脳をドライアイスにて凍結し、40 um厚の冠状切片を作成した後 Hematoxylin-Eosin 染色を実施し、傷害体積を計測した。傷害体積の計測には画像解析ソフト ImageJ を用いた。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究における全処置は名古屋大学動物実験指針に従って実施した。<BR>【結果】<BR> 内包への collagenase 注入により、全ラットで術後 1 日目より MDS の総合点の上昇を認め、運動機能の障害が確認された。運動機能障害は術後 10日目および 26 日目においても継続してみられたが、麻痺肢の強制使用による有意な影響はみられなかった。Single pellet reaching test においては、術後 10-12 日目の時点で強制使用群が対照群に比べ有意に良好な成績を示したが、術後 26-28 日目においては両群間に有意な差異を認めなかった。リーチ動作の様式においても、術後 10-12 日目の時点では強制使用群がより正常に近い動作様式を示したが、術後 26-28 日目においては対照群との間に差異はみられなかった。 Ladder test に関しては、術後 10-12 日目および 26-28 日目の双方において、強制使用群が対照群と比してより正確なステッピングを示した。Cylinder test に関しては、麻痺肢の使用率は両群間で同等であり差異はみられなかった。なお、傷害体積は両群ともほぼ同程度であり、強制使用による明らかな影響は認めなかった。<BR>【考察】<BR> 内包出血後の麻痺側前肢の強制使用により、運動麻痺の総合的な重症度や前肢の自発的な使用率には変化が見られなかったが、リーチ機能やステッピング機能といった、より巧緻性を必要とする運動機能は改善を示した。これらの結果は、麻痺肢の使用に伴う運動の再学習および中枢神経系の可塑的変化の促進を示唆するものと考える。また、強制使用群でステッピング機能が継続的な改善を示したのに対し、リーチ機能は初期(術後 10-12 日)では改善がみられたものの、後期(術後 26-28 日)の評価では対照群との間に有意な差異を認めなかった。本研究では麻痺肢の強制使用以外の処置は行っていないため、ラットの活動の中で一般的な動作であるステッピング動作に対し、特異的な動作であると推察されるリーチ動作は一時的な機能向上に留まった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究では、麻痺肢の強制使用の影響を複数の運動機能評価法および組織学的評価を用いて質的・量的側面から多角的に判定した。脳損傷後の持続的な麻痺肢の使用による生体への作用の解析は、 CIMT のみならず運動療法一般の発展に寄与するものであると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A2Se2027-A2Se2027, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566464256
  • NII論文ID
    130004581564
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a2se2027.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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