トレッドミル運動介入が老化促進マウスの脊髄前角細胞に及ぼす影響について

DOI

抄録

【目的】<BR>高齢化社会の進行とともに、理学療法の対象者も高齢者の割合が増加している。高齢者の多くは、若年者と比較し運動能力は低下しており、その背景には筋や神経系の構造および機能の変化がみられ、特に脊髄では加齢とともに前角の運動ニューロンが脱落すると報告されている。 <BR> 近年、オートファジーというタンパク質分解系が注目されている。オートファジーとは、リソソームを分解の場とする細胞内の大規模分解系の総称であり、その役割としては、細胞質成分を飢餓時に過剰に分解してアミノ酸を供給する、飢餓適応反応として主に理解されてきた。しかし、通常の環境下でも、プロテアソーム系と並んで細胞成分の代謝、品質管理に重要な役割を担っていることがわかっている。パーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患は、オートファジーの機能が低下し異常なタンパク質の蓄積が起こり、結果として錐体神経細胞や小脳プルキンエ細胞の脱落が起こるとの報告がある。このように、オートファジーの働きは細胞脱落と密接な関係がある。さらに、老化によりオートファジーの機能が低下してくることが報告されている。また、オートファジーの実行因子のひとつにBeclin1の発現が関与しており、オートファジーの活性にはBeclin1の発現の亢進がわかっている。<BR> そこで今回、老化促進マウス(Senescence-Accelerated Mouse)を用いて、オートファジーの実行因子であるBeclin1を指標にして加齢による脊髄前角細胞の変化を検討した。また、運動介入により脊髄前角細胞におけるBeclin1の発現に及ぼす影響について検討した。<BR><BR>【方法】<BR>50週齢の老化促進マウス23匹を用意し、8週間の普通飼育群(12匹)、8週間のトレッドミル運動群(11匹)に分けた。また、若齢群として12週齢の老化促進マウス8匹を用いた。運動介入として、トレッドミル運動を13m/minの速度で週に6日間、1日2回、各20分間行なった。また、傾斜角度は0°とした。実験終了後に麻酔下で脱血・潅流し脊髄を摘出した。腰膨大部から頭尾側1mmを切断した後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(pH7.4)で一晩浸漬固定した。その後、パラフィン包埋して5μmで連続横断切片を作成し、ニッスル染色、Rabbit+.anti-Beclin1抗体を用いた免疫組織化学染色を行なった。脊髄前角細胞数やBeclin1陽性細胞数を定量的に評価した。統計学的検定には一元配置分散分析を用い、有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は鹿児島大学動物実験倫理委員会の承認を得て行なった。<BR><BR>【結果】<BR>ニッスル染色により灰白質の脊髄前角細胞数を計測した結果、脊髄前角細胞数は老齢群<運動群<若齢群の順で多く、老齢群は若齢群・運動群よりも有意に脊髄前角細胞数が減少していた(p<0.05)。しかし、運動群と若齢群間には有意差はみられなかった。<BR>抗Beclin1免疫組織化学染色により灰白質のBeclin1陽性細胞数を計測した結果、老齢群<運動群<若齢群の順で多く、特に若齢群の脊髄前角細胞において強い発現がみられた。老齢群は若齢群・運動群よりも有意にBeclin1陽性細胞数が減少していた(p<0.05)。しかし、運動群と若齢群間には有意差はみられなかった。<BR><BR>【考察】<BR>ニッスル染色と抗Beclin1免疫組織化学染色の結果は同様な傾向がみられた。脊髄前角細胞数は、加齢により有意に減少がみられた。しかし、運動を行なうことにより老化による脊髄前角細胞の減少を抑制されることが示唆された。また、灰白質のBeclin1陽性細胞は脊髄前角細胞とほぼ一致した。Beclin1はオートファジーの実行因子のひとつであり、脊髄におけるオートファジーの活性は加齢により減少するが、運動により減少を抑制することが示唆された。このことから、加齢による脊髄前角細胞数の減少と運動介入による減少抑制には、オートファジーが関与する可能性が示唆された。運動介入によりオートファジーの活性低下を抑制することが、加齢による脊髄前角細胞の減少を抑制すると考えられる。<BR> オートファジーについてはその関連因子が多く同定されてきている。今回は実行因子のひとつであるBeclin1に着目して、加齢による前角細胞の変化と運動介入による効果について検討したが、今後は他の関連因子についても検討し、加齢による運動ニューロンの変化と運動が加齢変化に及ぼす効果について解明していきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>加齢による運動能力低下の主な原因の一つに、脊髄前角細胞の減少が挙げられる。運動により身体機能の向上は認められるが、脊髄前角細胞へ及ぼす影響は明らかにされていない。我々、理学療法士が理学療法を行う上で、加齢による背髄病変と運動介入による効果を検討することは高齢者における理学療法のエビデンス確立につながると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1001-A4P1001, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680544022528
  • NII論文ID
    130004581750
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1001.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ