ストレッチング時の肢位変化が伸張部位と自覚的伸張感へ及ぼす影響

DOI
  • 岩田 晃
    大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻
  • 淵岡 聡
    大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻
  • 木村 大輔
    大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科
  • 灰方 淑恵
    大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻
  • 樋口 由美
    大阪府立大学総合リハビリテーション学部理学療法学専攻

抄録

【目的】ストレッチングは理学療法において最も頻繁に用いられる治療手技の一つで、一つの筋に対して様々な肢位が勧められている。これは、肢位を変化させることによって、伸張部位を変化させることを目的としていることが考えられるが、我々の知る限り、ストレッチング時の伸張部位に関する研究は行われていない。近年、画像診断用超音波(以下、超音波)の技術的な発展により、非侵襲下での筋構造の観察が可能となり、多くの研究で用いられている。これらのことから、超音波を用いて伸張筋を観察し、肢位の変化と伸張部位の関係について構造学的に明らかにすることを目的とした。さらに、二つのストレチング時に、被験者が最も伸張感を感じる部位(以下、自覚的最大伸張部位)について測定し、その結果と構造学的変化の一致性についても分析した。本研究は臨床上で最も頻繁に用いられているストレッチングという治療法に科学的な根拠を与えるための基礎的な研究である。<BR>【方法】対象はSLR角度が70°以上、股関節屈曲角度が130°以上の条件を満たす健常男性7名とし、対象筋は半腱様筋とした。全ての被験者に対して、1)SLRストレッチング、2)股関節屈曲、膝伸展ストレッチング(以下、HFKEストレッチング)を順序はランダム化して実施した。また、各施行間には、短期的なストレッチングの効果持続時間を考慮して、15分間の休憩を設定し、超音波画像における筋構造に左右差は認められないことから、全ての被験者で右下肢をその対象とした。スリングを用いて、SLRストレッチングは膝関節完全伸展、股関節屈曲70°に、一方、HFKEストレッチングはSLR70°と半腱様筋が同じ長さになるように、股関節屈曲130°、膝関節屈曲95°に設定した。<BR> 超音波を用いて、右半腱様筋の近位部と遠位部の矢状面画像をBモード超音波法で撮影した。半腱様筋の近位背側表面には腱画があり、超音波での撮影が可能であるため、坐骨結節から腱画までの距離を筋長で除した値を近位部の伸張度合いとした。また、半腱様筋の起始部である坐骨結節から65%の位置を撮影し、この画像から画像解析ソフトを用いて、羽状角と筋厚を計測し、遠位部の伸張度合いとした。全ての撮影および測定は、被験者一人につき三回ずつ行った。<BR> 自覚的最大伸張部位は、両ストレッチング方法とも被験者の訴えに従いながら、最大伸張を得られるまで伸張した際の最も伸張感を感じる部位を被験者に示指で示すように指示し、その位置に印をつけ、筋長に対する割合を算出した。全ての項目について,SLRストレッチングとHFKEストレッチングの比較をt検定を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認のもと、全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し、同意を得た上で実施した。<BR>【結果】近位部では、筋長に対する腱画、坐骨結節間距離の割合は,HFKEストレッチングでは32.8 ± 4.5%、SLRストレッチングで28.2 ± 6.9%となり、HFKEストレッチングの方が有意に大きな値を示した。遠位部では,HFKEストレッチングにおける羽状角が 11.6 ± 3.6°、SLRストレッチングが9.7 ± 3.9°で、SLRストレッチングの方が有意に低い値を示した。また,筋厚については二つのストレッチング方法で差は認められなかった。自覚的最大伸張部位は、SLRストレッチングでは、起始部を0とした筋長に対する割合が67.0 ± 13.4%、一方でHFKEストレッチングでは57.3 ± 12.5%であり、この両ストレッチング方法間の差は9.7%で、SLRストレッチングの方が有意に大きな値を示した。<BR>【考察】腱画、坐骨結節間距離の筋長に対する割合の結果から、HFKEストレッチングの方が、半腱様筋の近位部が伸張されることが明らかになった。一方、遠位部については、筋厚に差はなく、羽状角についてはHFKEストレッチングよりもSLRストレッチングの方が小さい角度を示したことから、SLRストレッチングの方が伸張されることが明らかとなった。また、自覚的最大伸張部位の結果から、HFKEストレッチングの方が、近位部の伸張感を得られることが明らかとなった。これらの結果から、ストレッチング時の肢位によって、伸張部位は変化し、その傾向は自覚的な伸張部位と一致することが示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法で頻繁に用いられる骨格筋に対するストレッチングを実施する際の構造学的特徴を、生体内で明らかにした点に本研究の意義がある。また、本研究は基礎的な研究であるが、直接的に臨床応用が可能である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1017-A4P1017, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567337088
  • NII論文ID
    130004581766
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1017.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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