重症熱傷患者に対するリハビリテーション

DOI
  • 中路 一大
    近畿大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 本田 憲胤
    近畿大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 松島 知秀
    近畿大学医学部附属病院救命救急センター
  • 福田 寛二
    近畿大学医学部附属病院リハビリテーション部

抄録

【目的】<BR>近年、治療技術の進歩や熱傷ユニットの形成により、熱傷患者の生命予後は改善されてきており、特に重症度の高い広範囲熱傷の救命率においては著しく向上している。しかしその一方で機能的な制限が残存し、長期的なリハビリテーションを必要とされることが多く、熱傷患者の社会的予後は良いとは言い難い。当院では実際に長期的なリハビリテーションを必要とする患者を経験することも多く、急性期から集中的かつ長期間のリハビリテーションが必要であると考えられる。今回、重症熱傷患者に対するリハビリテーションについて症例を提示するとともに、熱傷後リハビリテーションのシステムを構築化すべく、国内外の現状と当院でのリハビリテーションについて比較検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR>対象:平成20年1月1日から同年12月31日までの間、熱傷後のリハビリテーションを施行したうち、社会復帰まで関わりの持てた1例を対象とした。症例:41歳、男性。自動車修理工場で部品の修理中に静電気が発生し、ガソリンに引火。顔面、両手、陰部および臀部から左下腿部までIII度熱傷を受傷し、当院救命救急センターに搬送となる。総熱傷面積32.5%、Burn Index22.9%であった。方法:循環動態が安定した受傷後3日目よりリハビリテーションを開始し、ポジショニングや他動的関節可動域訓練、呼吸リハビリテーションを行った。意識の回復後は積極的な自動運動を行い、離床訓練へ移行した。リハビリテーションは受傷から5ヶ月間継続した。並行して国内外の熱傷後リハビリテーションの現状を調査した。<BR>【説明と同意】<BR>本研究報告の趣旨と目的を患者および家族に説明し、同意を得た。<BR>【結果】<BR>症例:鎮静・人工呼吸器管理下よりリハビリテーションを開始した。開始時は全身性に浮腫を認め、被動抵抗感は強いが、明らかな関節拘縮は認めなかった。胸部X線上では右肺野の透過性低下を認め、同部位の呼吸音減弱がみられた。急性腎不全や感染性心内膜炎の合併によりリハビリテーションは遅延したが、受傷より3ヶ月で起居動作自立、移動はロフストランド杖歩行看視レベルで自宅退院となった。受傷後5ヶ月で外来リハビリテーション終了。移動はロフストランド杖歩行自立で、短時間であれば独歩も可能となったが、左膝関節の屈曲制限、左足関節背屈制限が著明に残存した。その後は自主トレーニングの徹底と他院でのリハビリテーションが継続された。18ヶ月後の追跡調査では独歩自立、下肢の深屈曲も可能となり、リハビリテーション終了時の一番の問題点であった座位の耐久性の向上としゃがみ込み動作の獲得に至った。現況調査:欧米ではほとんどの施設で搬入後24時間以内のリハビリテーション開始を推奨しており、社会復帰のためには一般的に受傷後18ヶ月のリハビリテーションが必要であるとされている。一方我が国では熱傷に対するリハビリテーションについて、具体的に記載されている書籍は見当たらず、受傷後48~72時間の全身状態が安定する時期からの開始が一般的である。当院でも同様に3日目以降に開始することが多い。<BR>【考察】<BR>熱傷後のリハビリテーションの目的は、治療の過程において起こり得る様々な障害の進行を最小限に留めることである。廃用症候群と各種合併症の予防には受傷後早期からの開始が重要であるが、経時的に変化する全身状態を把握し、リスク管理を行いながらその介入時期を見極める必要がある。また全人的なリハビリテーション介入には熱傷ユニットの形成が必須であり、各専門分野における管理と総合的なアプローチが重要である。我が国では熱傷チームやリハビリテーションの内容、介入時期など、未だ地域での格差があるように感じられる。特に急性期のリハビリテーションにおいてはまだまだ改善の余地があると思われる。今後はリハビリテーション介入の適切な時期など、各施設間で統一性を持たせるためのアンケート調査などを行い、全体としての更なるレベルの向上に向けた研究が必要と考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>熱傷患者に対する全人的なリハビリテーション医療を実施していくためには、解決しなければならない多くの問題があるが、これらを考慮してリハビリテーションシステムを構築化するためには、今回のような問題定義も大変意義のあるものと考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1062-A4P1062, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566928768
  • NII論文ID
    130004581810
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1062.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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