超音波画像を用いた呼気パターンの違いによる腹横筋活動の検討

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抄録

【目的】<BR> 腹横筋は腹壁筋群の深層に位置し,脊柱の安定や呼気補助筋として呼吸に関与している.この筋の強化には腹部を引き込む運動が有効とされているが,骨盤や脊柱の動きを抑制させる必要があり,実施困難な場合も多い.腹横筋が呼気を増大した際に呼気補助筋として活動する点に着目し,腹壁浅層筋である外腹斜筋の活動を伴わず,腹横筋活動が大きい呼気パターンを検証することを目的に筋活動を分析した.<BR>【方法】<BR> 健常女性18名(19.4±1.5歳)を対象に,超音波画像を用いて,安静吸気位から安静呼気位まで(以下VT),最大吸気位から安静呼気位まで(以下IC),最大吸気位から最大呼気位まで(以下VC)の3種の呼気パターンにおける外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋を測定した.各呼気パターンの呼気終末位と吸気終末位での筋肥厚の変化を筋活動として捉え,肥厚変化率を用いて比較した.対象者の呼気パターン別呼気量の設定には,フローボリューム計(日本光電社製:HI 701)を用いて,肺気量分画(以下SVC)を計測した.SVCの計測は,体幹が直立な座位姿勢にて,3回実施し,平均値を各対象者のVT,IC,VCの呼気量として設定した.腹壁筋群の計測には超音波診断装置(Aloka社製 SSD-600),5MHzリニア型プローブを使用し,各呼気パターンにて腹壁筋群である腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の筋肥厚の計測を行なった.計測肢位はSVC計測と同様とし,筋肥厚計測位置は右前腋窩線上,肋骨辺縁と腸骨稜との中点とした.各呼気パターンの実施順序はランダムとし,筋肥厚計測と同時に呼気流量の計測を行なった.呼気流量は各呼気パターンともに設定した流量の5%範囲内であったものを有効とし,有効な流量が3回得られるまで計測を行なった.計測より得られた呼気終末位と吸気終末位の筋肥厚画像はPCに取り込み,Scion Imageソフトウェアを用いて腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋をそれぞれ0.1mm単位にて計測を行なった.分析は3種の呼気パターンと各筋の肥厚の平均値とを呼気終末位と吸気終末位で比較した.また,筋肥厚を定量化するため,両計測位ともにVTを100として,ICならびにVCの筋肥厚値を変化率(%コントロール)で算出した値を用いた.統計処理にはStat View Ver5(Institute Inc製)を使用し,一元配置分散分析にて有意差が見られたもののみ,多重比較検定(Bonferroni/pun)にて比較を行なった.有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には研究の主旨を十分に説明し,自主的な参加の同意を得た者とした.なお,同意を得た後でも同意を撤回できることを説明した.<BR>【結果】<BR> 呼気終末位での呼気パターンの違いによる腹壁筋群の肥厚変化において,VTに対するVCでは全ての腹壁筋肥厚が増加した(P=<0.01).VTに対するICでは腹横筋と内腹斜筋の肥厚が増加した(P=<0.01)が,外腹斜筋の肥厚増加は見られなかった.吸気終末位での呼気パターンの違いによる腹壁筋群の肥厚変化において,VT に対するIC,VCでは,腹横筋肥厚が減少した(P=<0.05).その他の腹壁筋において減少は見られなかった. <BR>【考察】<BR> 呼気終末位において,VCでは努力性の呼気を要するため,全ての筋肥厚が高まったと考えられる.これに対しICは安静呼気位までの呼気であり,予備呼気量を呼出するための外腹斜筋の活動を必要としなかったと考える.また,Wakaiら(1992)の報告では,呼気時の平均流量が大きいほど腹横筋の電気的活動が高まることを報告しており,腹横筋の活動を高めるためには,安静呼吸よりも呼気流量を増大させる手段が有効であると考える. <BR>吸気終末位での最大吸気に伴う腹横筋肥厚の減少は,横隔膜の下行に伴う腹腔内圧の上昇より,腹壁内側に位置する腹横筋の肥厚が減少し,腹横筋が伸張位に移行したものと推察される.Russellら(1987)は,吸気に伴う腹横筋の伸張が呼息中枢を刺激すると報告している.そのため,腹壁筋の伸張が呼気筋である腹横筋の活動を高めた可能性も考えられた.<BR>以上から,VT に比べてICにて腹横筋活動が高くなった理由として,最大吸気に伴う腹横筋の伸張と呼気量の増加が関与したのではないかと推察する.また,IC はVCに比べ外腹斜筋の活動を伴わず腹横筋を活動させることが示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 脊椎の安定要素の1つである腹横筋の活動を安楽な呼吸で得られ事を明らかにすることで,脊椎疾患など安静臥床位にある方への早期介入手段につながると考える.<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P3052-A4P3052, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390001205573449088
  • NII論文ID
    130004581949
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p3052.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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