心原性脳塞栓症の病巣パターンによる運動機能回復の差違

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抄録

【目的】心原性脳塞栓症は,広範梗塞あるいは散在性梗塞を呈し,複数の血管支配領域に脳梗塞が出現する.本症の責任血管として重要な中大脳動脈の閉塞例の予後は,報告によって異なる.今回われわれは,心原性脳塞栓症の病巣を脳動脈の血管支配によって分類し,その予後と運動機能の回復について比較検討した.【対象】発症から24時間以内に来院し,急性期治療および理学療法が実施された心原性脳塞栓症患者59例,平均76.8±11.0(46~94)歳,男性27例,女性22例を対象とした.頭部MRI,MRA所見から,責任血管が内頸動脈,中大脳動脈のテント上梗塞例に限定した.入院時のNIHSSスコアは中央値13(2~28)点である.【方法】病変パターンは,発症後5病日以内に実施された頭部MRIの拡散強調像(DWI)の所見から,虚血病変の分布を脳動脈支配領域にて分類した.水平断での脳動脈の血管支配は,Tatuら(Neurology,1998)の報告に準じ,中大脳動脈の皮質枝梗塞(pial infarct:PI),レンズ核線条体動脈を含む中大脳動脈の穿通枝梗塞(perforating artery infarct:PAI),および分水嶺梗塞(border zone infarct:BZ)に分類した.病巣パターンをPI,PAI,BZとそれぞれの組み合わせとなるPI+PAI,PI+BZ,PAI+BZ,PI+PAI+BZの7種類に分け,運動機能の経時変化を比較検討した.なお,脳卒中の重症度評価にはNIHSSを用い,入院時と退院時で比較した.また,予後評価はmodified Rankin Scale(mRS)を用い,grade0~2をgood outcomeとした.運動機能は,日本脳卒中学会が提唱する標準化された評価であるJapan Stroke Scale Motor(JSS-M)を用い,理学療法開始から退院まで7病日ごとに評価した.統計は,一因子反復測定分散分析,一元配置分散分析,多重比較法を用い,危険率5%未満を統計的有意とした.【説明と同意】本調査は,厚生労働省の臨床研究に関する倫理指針に従った.診療録から後方視的に調査したため,インフォームド・コンセントは得られなかった.【結果】病変パターンは,PI:17例(28.8%),PAI:3例(5.1%),PI+PAI:35例(59.3%),PI+BZ:2例(3.4%),PAI+BZ:1例(1.7%),PI+PAI+BZ:1例(1.7%)であった.頻度の高かった2群の内訳は,PI:78.9±8.0歳,男性6例,女性11例,右半球障害7例,左半球障害10例,PI+PAI:76.2±11.0歳,男性18例,女性17例,右半球障害18例,左半球障害17例と有意差を認めなかった.また,入院日数もPIで平均32.8日,PI+PAIで40.5日と有意差を認めなかった.<BR>NIHSSスコアは,PIで入院時の中央値9点から退院時3点に,PI+PAIで入院時の14点から退院時8点といずれも有意に改善した(p<0.001).しかし,good outcomeの症例は,PIで6/17例(35.3%)に対しPI+PAIでは6/35例(17.1%)と,PI+PAIの病変パターンは予後不良となる傾向であった.<BR>JSS-Mスコアは,PIで理学療法開始時の17.02±9.02点から14病日(2週時)には11.79±9.89点,21病日(3週時)には9.98±9.88点,退院時には7.76±8.58点と,2週以降に有意な改善を認めた(理学療法開始時 VS 2週時・3週時・退院時;P<0.01, 2週時 VS 退院時;P<0.01).また,PI+PAIは理学療法開始時の24.62±9.12点から,14病日には21.63±10.43点,21病日には21.18±10.62点,退院時には19.46±11.28点と,PIと同様に発症後2週以降に有意な改善を認めた(理学療法開始時 VS 2週時・3週時・退院時;P<0.01, 2週時 VS 退院時;P<0.01,3週時 VS 退院時;P<0.05).しかし,PIに比べPI+PAIの改善はわずかで,いずれの時期も有意に運動機能は悪かった(理学療法開始時・1週時・2週時;P<0.01,3週時・退院時;P<0.001).【考察】心原性脳塞栓症は,広範な梗塞巣を呈することや散在性に複数領域に梗塞を呈することから,運動機能の回復には病巣パターンによって異なると予測される.本調査では,心原性塞栓症の病巣パターンは約90%が皮質枝領域のみと皮質枝+穿通枝領域に分類され,穿通枝領域を含む梗塞で運動機能の回復が乏しく,また予後も皮質枝領域の梗塞に比べより不良であった.これは,穿通枝領域の梗塞は中大脳動脈の近位部が閉塞することで生じるが,血管支配に重複がみられないレンズ核線条体動脈の灌流域での梗塞が内包にも及んだことが原因と考えられる.中大脳動脈起始部から分岐する穿通枝動脈を含む起始部閉塞では予後不良であったとする阿部らの報告(脳卒中,2003)を支持する結果であった.運動機能の改善は2週時に最も大きい傾向がみられたが,その理由には閉塞血管の再開通や浮腫の軽減など今後検討が必要である.【理学療法学研究としての意義】心原性脳塞栓症の病巣パターンから予後を推定することで,適切なリハビリテーションの目標設定が可能となること.また,標準的な機能回復過程を知ることで理学療法の効果判定が可能となることである.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B3O2100-B3O2100, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573265152
  • NII論文ID
    130004582043
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b3o2100.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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