成人ライ症候群の一例

DOI
  • 茶家 美由希
    倉敷リハビリテーション病院リハビリテーションセンター
  • 藤沢 美由紀
    倉敷リハビリテーション病院リハビリテーションセンター
  • 阿部 泰昌
    倉敷リハビリテーション病院リハビリテーション科

書誌事項

タイトル別名
  • 特異な動作と理学療法アプローチについて

抄録

【目的】ライ症候群はインフルエンザ脳症の一病型であり、ウイルス感染症後に起こる肝障害を伴う急性脳症である。発生頻度は100万人当たり3人以下、成人は約2%といわれ、成人に対する理学療法の観点からの報告は検索した限りでは例がない。今回成人ライ症候群の理学療法を経験したので新たな知見の提供を目的とし報告する。<BR><BR>【方法】臨床所見に理学療法アプローチを加え報告する。<BR>症例:30歳代後半、女性、身長165cm、体重60.8kg。<BR>現病歴:感冒症状に対して処方されたサリチル酸を服用した7日後、意識障害・痙攣にて発症。翌日救急病院搬送され、肝機能障害、アンモニア上昇を認めライ症候群と診断される。ICUにて人工呼吸器管理、免疫グロブリン大量療法、血漿交換療法施行される。第8病日より理学療法開始、第70病日頃より急速に意識レベル改善、第86病日当院転入院。<BR>既往歴:バセドウ病<BR>画像所見:CT、MRIにて異常所見なし。<BR>理学的所見:意識レベルJCS1。随意性両上下肢・手指のBrunnstrom's Recovery Stage6レベル。感覚正常。ROM‐T(単位:°右/左)足関節背屈5/0(膝伸展位-20/-25)、脊柱の可動性低下を認める。筋力はMMT腹筋1~2、股関節周囲筋3、その他3~4(右>左)。筋緊張は四肢に固縮様の緊張軽度亢進、腹筋群の緊張低下、背筋の過緊張を認める。アライメントは肩甲帯挙上、肩内転、肘屈曲位。姿勢反射の遅延と減弱を認める。起居動作中等度~重度介助、歩行は杖なしにて最小介助、耐久性約60m、腰椎前彎し骨盤と体幹が同時に回旋、上肢の振りなし。ADLは食事以外中等度~重度介助。motorFIM(以下mFIM)43/91点。周囲の環境に合わせて四肢を効率的に操作できず、動作全般が緩慢で易疲労性であり、体軸内回旋と脊柱の分節的な運動に乏しい。<BR>神経心理学的所見:記憶障害、注意障害、遂行機能障害を認める。<BR><BR><BR>【説明と同意】主治医、理学療法士より報告の主旨を本人、家族に説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】入院1ヶ月目、ROMex.、筋力増強運動、起居、歩行中心の動作練習を実施。起居動作は柵付きのベッドでは概ね自立。歩行は病棟内自立、耐久性約150m、速度13sec/10m。mFIM58/91点。<BR> 2~3ヶ月目、体幹機能の改善と、体幹の動きに伴う円滑な四肢の動きの獲得目的に床上動作練習を開始。毎回緊張が高まり脊柱が過剰に伸展、顔面紅潮と息切れが出現し全く動けない。動作方法の探索は困難で全般的に中等度~重度介助。足関節背屈15/10、筋力は股関節周囲3~4、腹筋2、その他4~5と改善するが、柔軟性に欠ける動作は著変なし。歩行は応用歩行練習中心に実施し院内自立、耐久性300m、速度12~13sec/10m、意識して速く歩くと円滑さ、耐久性が著減する。mFIM69/91点。自宅外泊中はベッドからの起居困難で毎回介助を要す。<BR> 4ヶ月目、体幹を安定させ動作の柔軟性を高める目的で、過剰努力を要する床上動作練習を減らし腰背部のリラクゼーションを実施。各動作の体幹回旋と分節的な運動が増加し柔軟性が向上、主観的にも好反応が得られる。歩行速度は著変なし。mFIM72/91点。<BR> 5ヶ月目、床上動作練習を再開。動作手順の細かい口頭指示に対し、「理論は分かるが方法を考えると出来ない」と訴える。過剰に意識することを防ぐため、課題提示を端的な口頭指示、デモンストレーションに変えると動作が遂行可能となる。mFIM74/91点。自宅ベッドで起居可能となり第239病日自宅退院。<BR> 発症10ヶ月後、脳血流SPECTにて両側側頭葉、前頭葉、小脳に血流低下を認める。<BR><BR><BR>【考察】明らかな運動麻痺がなく、ROM制限、筋力低下など廃用に伴う機能障害が改善したにもかかわらず、動作が易疲労性で効率が悪く、拙劣で緩慢な印象は終始一貫していた。体軸内回旋、脊柱の分節的な運動に乏しく、環境に合わせて効率的に四肢を操作することが困難であった。加えて意図すればするほど円滑な動作遂行が困難となることが特筆すべき特異な点と考えられた。床上動作練習を取り入れて改善を試みたが、当初は過剰努力を助長し効果が得られなかった。体幹機能などに対する理学療法を継続しながら、課題の提示方法を変えることにより無意識下で動作が遂行可能となり、環境の変化に対応できるようになったと考える。特異な動作の本質は現在も残存しており、これは疾患特性の影響も大きいと考えられるが、臨床症状を丁寧に評価・分析し、柔軟に対処しながらより良い治療法を模索していくことが重要であると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】稀有な例であり、臨床症状の解釈、アプローチに難渋した。今後同様の症例を担当する療法士の一つの先行資料として活用されることを期待する。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), B4P3078-B4P3078, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548414848
  • NII論文ID
    130004582158
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.b4p3078.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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