人工股関節置換術後における機能的脚長差に及ぼす因子の検討

DOI
  • 森 公彦
    関西医科大学附属枚方病院 リハビリテーション科
  • 建内 宏重
    京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
  • 脇田 正徳
    関西医科大学附属枚方病院 リハビリテーション科
  • 濱田 真一
    関西医科大学附属枚方病院 リハビリテーション科
  • 水家 健太郎
    関西医科大学附属枚方病院 リハビリテーション科
  • 飯田 寛和
    関西医科大学医学部整形外科学講座

抄録

【目的】人工股関節置換術(THA)術後患者では真の脚長差の有無に関わらず、主観的な脚長差を強く訴えることが少なくない。このような脚長差は脊椎、骨盤、下肢の拘縮に対する代償により生じるものとされており、機能的脚長差とよばれている。機能的脚長差には、脊椎の側屈、骨盤の側方傾斜および下肢では股関節の内転、外転可動域が影響すると考えられる。また、両側の股関節は骨盤を介してつながっているため、股関節内転の可動性の左右差が骨盤傾斜に影響を及ぼすことが予測されるが、実際にどの因子の影響が大きいのかは不明な点が多い。本研究の目的は、股関節内転可動域や内転の可動性の左右差が機能的脚長差にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることである。<BR>【方法】対象は一側性変形性股関節症(右側17例、左側12例)に対して当院整形外科にてTHAを施行され、当院クリニカルパスに準じて訓練を行った29名(男性4名、女性25名)とした。平均年齢は62.8±8.8歳、平均身長は155.9±6.9cm、平均体重は60.0±12.2kgであった。測定日は全対象者で術後14日目以降とし、平均17.2±2.8日であった。膝関節、足関節に明らかな変形や拘縮を有する者は除外した。測定項目は、脚長差、仰臥位における体幹・下肢アライメント、股関節の関節可動域とした。脚長差は真の脚長差として棘果長(SMD)および臥位でのX線正面像の両側股関節画像を用いて、涙痕を結んだ線から小転子までの垂線の長さを計測し、それぞれ左右差を算出した。また仰臥位で胸骨柄、両上前腸骨棘の中点、両脛骨内果の中点が一直線になるように閉脚した肢位において左右の足底面の高低差を計測した。足底面の高低差、真の脚長差ともに術側が長い場合を正として表し、足底面の高低差から真の脚長差を引いた値を機能的脚長差とした。仰臥位でのアライメントは、閉脚時の股関節内転角度(仰臥位内転角度)および胸骨柄頸切痕から上前腸骨棘の長さ(体幹長)を計測した。仰臥位内転角度、体幹長は左右差をそれぞれ仰臥位内転角度差(術側内転角度が大きい場合を正)、体幹左右差(術側体幹長が長い場合を正)として表した。関節可動域は股関節内転角度(内転ROM)を計測した。角度の計測はゴニオメーターを使用し、すべて1度刻みで記録した。統計処理は、機能的脚長差(X線、SMD)、仰臥位内転角度、仰臥位内転角度差、体幹左右差、術側内転ROMそれぞれの関連性を検討するためにピアソンの相関係数を用い、危険率5%未満を統計学的有意とした。<BR>【説明と同意】本研究の参加に際して、事前に患者に研究の目的、方法および調査結果の取り扱いなどに関して説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】機能的脚長差(X線、SMD)の平均はそれぞれ0.3±1.1cm(-2.5~2.8cm)、0.4±1.1cm(-2.2~2.8cm)であった。また、術側および非術側内転ROMの平均はそれぞれ6.0±3.7度(1~13度)、11.3±3.0度(7~19度)であった。術側仰臥位内転角度、非術側仰臥位内転角度および仰臥位内転角度差の平均はそれぞれ3.7±2.9度(-3~10度)、5.7±2.4度(2~13度)、-2.0±4.8度(-13~8度)であった。体幹左右差の平均は0.4±1.5cm(-4.1~2.9cm)であった。機能的脚長差(X線、SMD)は体幹左右差(r=0.89、0.93)、仰臥位内転角度差(r=-0.79、-0.84)、術側仰臥位内転角度(r=-0.72、-0.75)、術側内転ROM(r=-0.62、-0.67)で有意な相関関係を認め(p<0.001)、術側体幹長が非術側より大きいまたは仰臥位内転角度、術側内転ROMが小さいほど機能的脚長差は大きくなった。また、仰臥位内転角度差については、相対的に術側の内転角度が小さいほど機能的脚長差は大きくなった。仰臥位内転角度差は体幹左右差(r=-0.82)、術側内転ROM(r=0.73)で有意な相関関係を認め (p<0.001)、術側体幹長が非術側より大きいまたは術側内転ROMが小さいほど、仰臥位内転角度差としては術側での内転角度が相対的に小さい傾向を示した。<BR>【考察】本研究によりTHA術後の機能的脚長差は、術側内転ROM、仰臥位内転角度、仰臥位内転角度差および体幹左右差が影響することが明らかとなった。仰臥位内転角度差は股関節内転可動性の左右差を反映し、内転可動性は股関節では外転筋の伸張性が関与すると考えられるため、術側股関節外転筋の相対的な伸張性の差が骨盤傾斜を引き起こし機能的脚長差が生じていると考えられる。よって、機能的脚長差の原因については、脊柱の変形や術側股関節の可動域のみならず、左右股関節の相対的な可動性の差にも着目して評価を行うことが重要であると思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、THA術後に問題となることが多い機能的脚長差の原因について意義のある知見を提供するものであり、補高を含めた治療への一助となると考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P1135-C4P1135, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680549699072
  • NII論文ID
    130004582388
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p1135.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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