人工膝関節置換術が及ぼす身体機能および痛み対処方略の変化

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抄録

【目的】人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty;以下TKA)後は,筋力など身体機能の回復だけでなく,術後の疼痛の程度に左右される印象を持つ.我々は「自分自身で痛みをうまく管理する」といった痛み対処方略(pain coping strategy)に着目した.入院生活とは異なる自宅生活での機能改善と痛み対処方略の関連を把握することは退院時指導のヒントとなる.そこで我々は、TKA後3カ月の身体機能および患者の痛み対処方略がどのように変化し,痛み対処方略の変化が及ぼす術後の身体機能との関連を検討した.<BR>【方法】対象は当院にて変形性膝関節症に対しTKAを施行した患者22名23脚(平均年齢72.8±6.8歳, BMI27.8±4.6kg/m2)であった.測定項目は等尺性膝伸展筋力体重比(機器:アニマ社製μ-tas), Timed up and go test(以下TUG),10m歩行時間であった.調査項目は日本版変形性膝関節患者機能評価表(Japanese Knee Osteoarthritis Measure:以下JKOM ),痛みの評価はVisual Analogue Scale(以下VAS)とした.痛み対処方略の評価はCoping Strategy Questionnaire日本版(以下CSQ),認知面からみた身体活動の評価に,歩行に関するself efficacy(以下歩行SE),疼痛がどの程度軽減できるかという対処方略の全体評価に,痛みに対するself efficacy(以下疼痛SE)を採用した.CSQのうち認知的対処方略には,「注意の転換」,「思考回避」,「自己教示」,「無視」,「願望思考」,「破滅思考」の下位尺度があり,行動的対処方略には,「痛み行動の活性化」と「他の行動の活性化」の下位尺度がある.得点が高いほどその対処方略を採用していることを示す (最高12点,最低0点) .測定時期は術前と術後約3ヶ月であった.統計学的解析は,各項目の前後の差の検定にはWilcoxonの符号付き順位検定を,各項目の変化量と痛み対処方略の変化との関連には単回帰分析を使用し,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】本研究は聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認を得て実施された.(承認番号第1313号)<BR>【結果】術前→術後の順に中央値(四分位偏差)で示す.術側膝伸展筋力体重比は0.26(0.09)→0.27(0.06)kgf/kg,非術側は0.35(0.08)→0.36(0.06)kgf/kgであった.TUGは10.98(2.33)→9.84(2.13)秒,10m歩行時間は9.28(2.29)→7.98(1.08)秒であった.JKOMは46(17)→27(9)であった. VASは59.5(17.75)→13.5(19)であった.有意な改善は10m歩行時間,JKOM,VASでみられた (p<0.01) . CSQは「注意の転換」4(2.5)→3(2.5),「思考回避」6(2.5)→3(2.5),「自己教示」10(3.5)→5(2.5),「無視」6(1.5)→3(2.5),「願望思考」8(4)→5(3.5),「破滅思考」4(2)→2(2),「痛み行動の活性化」5(2)→5(3),「他の行動の活性化」9(2)→4(2)となり,CSQの各下位項目のうち注意の転換,思考回避,自己教示,無視,願望思考,他の行動の活性化で術前後に有意な変化がみられた.歩行SEは14(3.5)→19.5(3.25)、疼痛SEは6(0.5)→8(1.5)となり,有意に改善した(p<0.05).歩行SEおよび疼痛SE,JKOMを従属変数とし,各身体機能,VAS,CSQ下位項目の変化量を独立変数とした単回帰分析では有意差を認めなかった.<BR>【考察】術後3カ月ではVASや10m歩行時間,JKOMの改善とともに痛み対処方略の採用そのものが減少していた.TKAによる疼痛軽減、術後の疼痛コントロールがなされ,身体機能や日常生活動作の改善が示された.一方,膝伸展筋力やバランス評価では術前後で有意な変化はみられなかった.TKA後の経過は,身体機能の改善よりも疼痛の程度が生活の改善に関与していることが示唆された.更に,改善に影響を及ぼした因子を検討するため解析を行ったが,特徴的なものは示されなかった.CSQ下位項目は個人ごとに傾向が異なるため,さらに因子内でのグループ化など詳細な検討が必要である.<BR>【理学療法学研究としての意義】臨床の疼痛管理では,患者自身の疼痛に対する認知の把握やその活用はほぼ行われていない.早期退院が推奨される現状において,患者自身の自己管理は重要となり,術後の身体機能や痛み対処の変化,患者のself efficacyが退院後の機能回復にどのような影響を及ぼすのかということは,患者指導における有用な情報となると思われる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), C4P2201-C4P2201, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572917248
  • NII論文ID
    130004582465
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.c4p2201.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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