特発性間質性肺炎患者の6分間歩行試験におけるSpO2の経時的変化

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抄録

【目的】<BR> 特発性間質性肺炎(IIPs)は、運動に伴う著明な低酸素血症を特徴とする原因不明のびまん性間質性肺炎の総称である。現時点で有効性が証明された治療法が存在しないことから、予後や自然経過に関与する因子の評価が欠かせない。近年、6分間歩行試験(6MWT)で測定した経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)と予後に関連が報告され(Eaton 2005)、運動時低酸素血症評価法として6MWTが注目されている。IIPsの大半を占める特発性肺線維症(IPF)の重症度判定には安静時PaO2に加えて6MWTによるSpO2測定が追加されており、本邦においても6MWTの利用が望まれている。<BR> 一方、近年では慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者を対象として2分間歩行試験の有用性が報告され(Leung 2006)、重症患者に負担が少なく妥当な検査の適用が検討されている。また、IPF患者では、SpO2<90%を重症度判定の基準としていることから必ずしも6分間の測定を必要としない場合があり、SpO2の変化を適切に捉えた評価が重要である。しかし、IIPs患者の6MWTにおけるSpO2変化を経時的に報告した研究はわずかであり、十分な検討がなされているとはいえない。<BR> 本研究ではIIPs患者を対象として6WMTでのSpO2変化を経時的に分析し、他のパラメータと関連を含めて6MWTにおけるSpO2動態を明らかにすることを目的とする。<BR>【方法】<BR> 対象はS大学病院に外来通院中のIIPs患者42例(UIP29例、f-NSIP10例、その他3例)で、男性26例、女性16例、年齢(平均±標準偏差)は68.0±7.8歳、肺拡散能の正常予測値に対する実測値の割合(%DLco)は44.6±14.9%であった。<BR> 6MWTの実施手順は、米国胸部医学会(ATS)標準法に準拠し、平坦な30mの直線路において自己調節した歩行速度で6分間に可能な限り往復歩行させ歩行距離(6MWD)を測定した。テスト中は左手中指にパルスオキシメータ(PULSOX-M24、TEIJIN社)のプローブを装着し、左手を体幹に固定し腕振りを最小限にした状態で、10秒毎のSpO2、PRを記録した。また、修正Borgスケールを用いてテスト終了時の呼吸困難を聴取した。なお、IIPs患者の病態を考慮してSpO2のモニタリングを行い、担当医指導のもとSpO2<80%を中止基準とした。<BR> 得られたデータからSpO2の経時的な変化を分析するとともに、SpO2最低値(SpO2min)とPR最大値を算出し、測定パラメータ同士の関連性をPearsonの相関係数を用いて検討した。データ解析には統計解析ソフト(Prism 5、GraphPad社)を使用し、有意水準はp<0.05に設定した。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究はS大学倫理委員会の承認を得て実施し、対象者には同意説明文を用いて紙面と口頭による説明を行い、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 10秒毎の平均SpO2は6MWT開始後2分まで直線的に低下し、その後6分までほぼ一定に経過した(開始時:96.1±1.0%、2分:91.3±1.0%、6分:91.5±4.0%)。また、42例中14例(33.3%)でSpO2が90%以下となり、その平均到達時間は104.3秒(範囲40~230秒)であった。測定パラメータ同士の関連性の検討では、SpO2minと6MWDにのみ有意な相関(r=0.56、p<0.05)を認めた。<BR>【考察】<BR> 平均SpO2は6MWT開始後2分まで直線的に低下した後はほぼ一定となり、重症度判定の基準であるSpO2<90%でみた場合でも平均到達時間は104.3秒であった。そのため、約2分でおおよそのSpO2低下を判定できる可能性があるといえる。ただ、6MWTにおけるSpO2の経時的な変化について検討した報告では、歩行速度を自己調節するため負荷量が一定ではなく、必ずしも運動時低酸素血症を検出できない可能性が指摘されている(坪井 2000)。SpO2<90%を基準とした場合、本研究では開始1分未満で到達する症例から4分を要する症例まで幅が認められたことから、適切に運動時低酸素血症を捉えるためには経時的なSpO2の評価が重要となる。また、測定パラメータ同士の関連性の検討ではSpO2minと6MWDに有意な相関を認めた。自転車エルゴメータによる運動負荷試験で測定した運動耐容能とSpO2minには有意な相関は報告されていないが、6MWTにおけるSpO2の評価では6MWDの影響を考慮する必要があると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> IIPs患者に対して最小限の負担で適切な運動時低酸素血症の評価を行うことは重要な課題であり、本研究結果はIIPs患者のSpO2評価法の発展に資する意義があると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D3O1151-D3O1151, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572074624
  • NII論文ID
    130004582573
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d3o1151.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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