転地療法参加児童の腹式呼吸の習熟度と理解度調査

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抄録

【目的】<BR> 喘息児童は成人慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)と同様、年々増加している。その対策として、自治体によっては喘息児童に対する公害保健事業の一つとして転地療法を実施している。転地療法とは、家庭や学校から離れた場所で、喘息児童が規則正しい生活、レクレーションや講義などを通して、喘息に対する理解と発作時の対処法を学ぶ場となっている。この転地療法に呼吸リハ指導者として理学療法士は参加している。そして、喘息児童は学んだことを日常生活の中でも継続することで、発作時にパニックを起こさずに自己で対処することが出来るようになる。<BR> しかし、転地療法参加後の日常生活において、腹式呼吸の訓練を継続して行ってないという報告も聞かれる。この継続ができていない理由として、児童の腹式呼吸に対しての意味や目的の理解が不十分であるのではないかと考えた。これまで、転地療法における腹式呼吸の習得度に関する報告はあるが、児童の理解度に関する実態は明らかにされていない。そこで今回、東京都A区の転地療法実施時に、参加児童の腹式呼吸の習熟度と理解度について調査したので報告する。<BR><BR>【方法】<BR> 対象はH21年度の東京都A区の転地療法に参加した小学校4年生から中学3年生までの30名の児童(男子:16名、女子:14名)であった。学年の内訳としては小学4~6年生が21名、中学1~3年生が9名であった。参加回数の内訳では、初参加および2回目が16名、3回目以上14名であった。全ての参加児童に転地療法中に実施した講義や呼吸リハの資料を配布している。<BR> 腹式呼吸の習熟度と理解度の評価項目を、1)背臥位にて腹式呼吸が実施可能である。2)座位にて腹式呼吸が実施可能である。3)腹式呼吸の目的や効果を理解しているとした。この3項目を、理学療法士による介助や助言なく可能であった場合を2点、介助や助言を有したが可能であった場合を1点、不可能であった場合を0点とし、各項目における児童全体の達成率を算出した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 調査参加児童に対して、本調査の目的や意義を説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR> 1)背臥位で腹式呼吸が介助なく行えた児童は26名であり、介助後に行えた児童は3名、行えなかった児童は1名であり、達成率は91.7%であった。2)座位にて腹式呼吸が介助なく行えた児童は25名であり、介助後に行えた児童は2名、行えなかった児童は3名であり、達成率は88.3%であった。3)目的や効果について回答出来た児童は12名であり、助言を与えて回答出来た児童は5名、回答出来なかった児童は13名であり、達成率は50%であった。<BR> 本調査より、臥位や座位での腹式呼吸の実践可能度に比べて、理解度が低下していることが明らかとなった。<BR><BR>【考察】<BR> 腹式呼吸は喘息発作時の対処法として行われるが、日頃から実践の目的を理解し、行うことの意義を児童自身が見出すことで、自主訓練や訓練継続につながることが期待される。そして、日常的に訓練を継続することによって発作時にパニック状態に陥っても、冷静に対処できる可能性が高まることになると考えられる。結果として、自己対処能力の向上が自己の自信につながり、活動制限の緩和が図れるのではないかと考えられる。以上のことから、理学療法士は転地療法において腹式呼吸の習熟度の達成以外にも理解の促進を図っていくことが重要ではないかと考える。また、転地療法は喘息の管理を親から児童へ移行させる貴重な機会であるので、児童のみならず、親に対する腹式呼吸の効果の理解が促進されるような取り組みも重要である。<BR> 本調査結果から背臥位および座位での腹式呼吸の技術は多くの児童が体得していることが明らかとなったが、その腹式呼吸の目的や効果について理解している児童は半数であった。つまり、腹式呼吸の実践は可能であるが、なぜ実践するのか、実践することの効果ついての理解が不十分であった。腹式呼吸指導では、呼吸の実践だけでなく、目的や効果の理解に対しても十分に行っていくことが必要である。また、今後も調査を継続し、訓練継続率や理解度の及ぼす影響などを明確にしたいと考えている。その結果、より効果的な転地療法が実施できるよう取り組んでいきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> COPDに関する報告に比べると喘息児童に関する報告は理学療法の分野では少ない。また、腹式呼吸の目的や効果の理解度に関する調査は散見できない。しかし、喘息児童は年々増加しており、理学療法士が喘息児童に対して呼吸に関する指導する機会も今後は増加して行くことが予想される。したがって、本調査のような喘息児童を対象とした調査は研究意義が大きいと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P1174-D4P1174, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571886464
  • NII論文ID
    130004582626
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p1174.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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