実測による安静時代謝量の有用性についての検討

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抄録

【目的】<BR>身体障害を有する人は、高血圧や糖尿病などの合併症を有することが少なくない。適切な食事療法や運動療法を実施するうえで安静時代謝量(resting metabolic rate:以下RMR)は基本となる数値である。健康増進のため、健常者でも体組成計を利用して脂肪率や筋肉量、RMRを測定し、運動や食事摂取カロリーの設定に利用されてきている。しかし、さまざまなタイプの体組成計が普及する中で、それらの数値が身体障害を有する人にとって適切であるかとの検証はまだ一部の報告があるだけである。そこで今回我々は、健常者及び種々の身体障害を有する人を対象とし、計算式でのRMRと種々の測定装置で得られたRMR測定値、および筋肉量を比較し、それぞれの測定装置の特徴を検討したので報告する。<BR>【方法】<BR>対象:本研究に同意の得られた51例(内訳:健常者14名、糖尿病9例、脊髄損傷9例、TBI 7例、CVA12例)、平均年齢50.2歳(18~85歳)、男性40例、女性11例。測定機器および測定項目:1) メタボリックアナライザー MedGemR(エムピージャパン株式会社)にてRMRを測定。測定条件:食後4時間後、測定前15分安静、安静椅子座位。 2) 身体組成分析装置MLT-50(多周波方式インピーダンス法;東レ・メディカル株式会社):身体組成(体脂肪率、筋肉量、RMRなど)。 3) インナースキャンRV(体重計一体型両足間方式;TANITA製):身体組成(体脂肪率、筋肉量、RMR)、4)オムロン体脂肪計HBF-306(両手間方式;OMRON):身体組成(体脂肪率、RMR)。検討内容1:RMR測定値と計算式との比較:計算式:男=(9.99×体重kg)+(6.25×身長cm)-(4.92×年齢)+5、女=(9.99×体重kg)+(6.25×身長cm)-(4.92×年齢)-161。検討内容2:RMR測定値と体組成計における筋肉量の比較:これらの検討にあたっては、ピアソンの相関係数を用いた。<BR>【説明と同意】<BR>本研究についてはその趣旨を説明し、書面にて同意を得ている。<BR>【結果】<BR>検討―1:Med GemRによる実測RMRと計算式による予測RMRとの相関:全体r=0.645、r=0.73。疾患別の検討では、糖尿病r=0.38、脊損 r=0.325、CVA r=0.28、四肢麻痺や片麻痺などの中枢神経障害を呈する疾患群において相関係数は低い傾向となった。Med GemRによる実測RMRと体組成計でのRMRとの比較:身体組成分析装置MLT-50:r=0.738, インナースキャンRV:r=0.577, オムロン:r=0.577。<BR>検討―2:Med GemRによる実測RMRと身体組成分析装置MLT-50での推定筋肉量との相関:r=0.752。<BR>【考察】<BR>ダグラスバッグやMed GemRによる呼気ガス分析で測定されたRMRは、個々の患者におけるRMRが最も正確に反映されたものである。しかし、身体障害を有する人たちでは、呼気ガス分析でのRMR値と計算式でのRMR値の相関は低く、その原因の一つとして筋肉量の減少と代謝効率の相違が考えられている。RMR健常者における実測RMRと筋肉量との相関を検討するとr=0.79と高い相関を示した。これは緒家の報告と同様の結果であり、筋肉量はRMRの重要な規定因子と考えられた。しかし、身体障害を有する人では、相関係数が低く、その原因の一つとして筋肉量の減少が示唆された。身体障害を有する人に適切な運動量を指導するためには、計算式でのRMRを用いるのではなく、呼気ガス分析でのRMRを利用すること、体組成計でのRMRを利用する場合は筋肉量も参考にして実施する必要があると考えられた。<BR> また、常時、呼気ガス分析での評価を実施することは困難であり、簡便に測定できる体組成計を利用したRMRや筋肉量の評価が訓練には有用と考えられる。身体障害のタイプによっては立位姿勢保持ができない場合には体重計一体型両足間方式での測定は困難であり、上肢の片麻痺が重度の場合には両手間方式での測定が困難である。患者の障害に合わせて体組成計を選択することになるが、それぞれの測定値には今回の研究で特徴があることが判明したので、それぞれの測定機械から得られる数値の特性を理解したうえで患者指導に用いる必要性があると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>この研究によって患者のRMRを正確に推測できるようになり、効果的な運動処方を行うことが可能となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), D4P2251-D4P2251, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571867776
  • NII論文ID
    130004582667
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.d4p2251.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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