股関節牽引によって変形性股関節症における関連痛を股関節由来と評価できるか?

DOI
  • 若松 志帆
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 西上 智彦
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 岡上 裕介
    高知大学医学部整形外科教室
  • 榎 勇人
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 中尾 聡志
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 芥川 知彰
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 石田 健司
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 谷 俊一
    高知大学医学部附属病院リハビリテーション部

抄録

【目的】変形性股関節症などの股関節疾患において,鼠径部の痛みだけでなく,殿部や膝関節前面などの関連痛が認められることがある.このような関連痛が患者のADLやQOLの低下を招く一因となる.これまでに変形性股関節症に対する股関節牽引療法で鼠径部の痛みが改善することは報告されているが,関連痛に対する効果は明らかではない.変形性股関節症において殿部や膝関節前面などの痛みが股関節由来か評価する手法として,股関節内の局所麻酔剤の投与後や人工股関節置換術3ヶ月後に痛みが減少するかの評価が挙げられるが,侵襲的であることや保存療法の場合では行えないことなど,それぞれ問題点がある.膝関節前面痛が股関節由来の痛みか膝関節や大腿四頭筋による痛みかによって治療方針が大きく異なるため,鑑別する評価手法の構築は重要である.今回,鼠径部痛と膝前面痛を有する変形性股関節症に対して股関節牽引療法の即時的な痛み軽減効果を検証し,股関節牽引療法によって関連痛を股関節由来と評価できるか検討した.<BR>【方法】対象は人工股関節置換術目的で入院した変形性股関節症患者で,鼠径部痛と膝関節前面痛を有している女性8名とした.膝関節前面痛が股関節疾患由来の痛みであるかどうかは,整形外科医によるキシロカインの股関節注射により痛みが軽減するかで判断した.年齢は66.4±8.6歳,病期は進行期2名,末期6名,JOA Hip Scoreは35.1±9.9点であった.鼠径部痛と膝関節前面痛の評価は股関節注射および股関節牽引療法前後に10mの最速歩行を2回行い,その直後にvisual analog scale(VAS)にてそれぞれ行った.股関節牽引療法は専用の大腿カフ装具(大腿フラクチャーブレースに準じて作製し牽引するためのバンドを取り付けたもの)を作成し,腰椎牽引機を使用して,股関節・膝関節軽度屈曲位にて牽引力を15kgwtとして15分間,10秒牽引,10秒休止の間歇牽引で行った.統計はWilcoxon signed-rank testを用いて鼠径部痛と膝前面痛における股関節注射前後と,股関節牽引療法前後のVASをそれぞれ比較した.また,股関節注射と股関節牽引療法の施行前と施行後のVASの差を改善度とし,鼠径部痛と膝前面痛についてそれぞれ算出した.まず,股関節注射と牽引療法による鼠径部痛の改善度および膝前面痛の改善度の相関関係をそれぞれ求め,ついで,股関節牽引療法における鼠径部痛と膝前面痛の改善度の相関関係を求めた.なお,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】口頭及び書面でもって対象者に理解が得られるように充分説明を行い,本研究に理解・賛同した者のみを対象者とした.<BR>【結果】鼠径部痛はVASにて股関節注射前では52.0(41.5-63.0),股関節注射後では0,股関節牽引療法前では59.5(46.7-68.2),股関節牽引療法後では27.5(21.0-33.5)であり,股関節牽引療法前後で有意な差は認めなかった.膝前面痛は股関節注射前では44.0(28.2-57.5),股関節注射後では0,股関節牽引療法前では46.0(22.5-55.7),股関節牽引療法後では0(0-0.75)であり,股関節牽引療法後に有意な減少を認めた.股関節注射と牽引療法による鼠径部痛の改善度については有意な相関関係(r=0.91)が認められ,膝前面痛の改善度についても有意な相関関係(r=0.81)を認めた.また,鼠径部痛と膝前面痛の改善度について有意な相関関係(r=0.74)を認めた.<BR>【考察】股関節疾患における関連痛については股関節の神経支配がL1-L4に及ぶこと,後根反射による神経原性炎症,脊髄後角での感覚受容野の増大などが考えられている.股関節牽引療法の除痛メカニズムとして,関節内圧の低下,筋のリラクゼーション,下行性疼痛抑制系の関与などが挙げられるが未だ明らかではない.本研究によって,股関節牽引療法は股関節部の関連痛と考えられる膝前面痛がより改善することが示唆された.<BR>【理学療法学研究としての意義】変形性股関節症に対して股関節牽引療法を行い,股関節由来の膝関節前面痛が減少することが認められた.本研究結果から,変形性股関節症における関連痛を股関節牽引療法によって非侵襲的,保存的に股関節由来か見極めれる可能性が示唆される.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), F3O1207-F3O1207, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573942016
  • NII論文ID
    130004582917
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.f3o1207.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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