糖尿病性神経障害の有無が男性2型糖尿病患者の足趾筋力に与える影響

DOI
  • 片岡 弘明
    KKR高松病院リハビリテーションセンター 県立広島大学大学院総合学術研究科
  • 田中 聡
    県立広島大学保健福祉学部理学療法学科
  • 宮崎 慎二郎
    KKR高松病院リハビリテーションセンター
  • 石川 淳
    KKR高松病院リハビリテーションセンター
  • 北山 奈緒美
    KKR高松病院リハビリテーションセンター
  • 三好 里梨子
    KKR高松病院リハビリテーションセンター

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抄録

【はじめに、目的】糖尿病性神経障害は,他の慢性合併症である網膜症や腎症と比べて比較的早期から出現することが知られており,2型糖尿病患者において高頻度に認められる合併症である.近年,糖尿病性神経障害の中でも運動神経の障害が注目されるようになり,これに関連した先行研究がいくつも報告されるようになった.その中でも筋力に関する報告では,2型糖尿病患者の膝関節屈曲・伸展筋力および足関節底屈・背屈筋力の低下が示されており,さらにこれらは糖尿病性神経障害の重症度と関連していることが明らかとなっている.一方,糖尿病性神経障害の特徴の一つとして,より長い神経線維の遠位部(足尖部)から障害されることが知られているが,足趾筋力に関する報告は少なく,また糖尿病性神経障害による影響についても不明である.そこで今回,男性2型糖尿病患者の足趾筋力について糖尿病性神経障害合併の有無別に検討を行ったので報告する.【方法】男性2型糖尿病患者28名(平均年齢54.0±11.6歳,平均罹病期間8.6±8.5年)を対象とした.感覚異常が片側のみ,あるいは下肢ではなく上肢のみに認められる患者,足部や足趾の変形を認める患者,整形外科的疾患および脳血管疾患の既往のある患者は測定対象から除外した.足趾筋力の測定には足趾間圧力計測器(日伸産業株式会社製)を用い左右それぞれ2回ずつ測定し,最大値を採用した.得られた足趾筋力(kg)は,体格による影響を除くため左右筋力の和から体重で除した値である体重比(%)を算出した.糖尿病性神経障害の合併の有無は,糖尿病神経障害を考える会の簡易診断基準に準じて,自覚症状,両側のアキレス腱反射,両足部内果の振動覚を測定し判定した.そして糖尿病性神経障害が認められた者をDN群,認められなかった者を非DN群の2群に分類し比較検討した.検討項目は2群の背景因子(年齢,身長,体重,BMI,HbA1c,罹病期間),薬物療法および運動療法の実施状況,足趾筋力とした.統計学的解析として,2群間の背景因子および足趾筋力の比較にはMann-WhitneyのU検定,薬物療法および運動療法の実施状況の比較にはFisherの正確確率検定を用いた.データ解析には,統計解析用ソフトウェアSPSS 20.0 for windowsを使用し,有意水準は5%未満に設定した.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,KKR高松病院および県立広島大学研究倫理委員会の承認(承認番号:第12MH001)を得ており,全ての対象者に対して研究開始前に本研究の趣旨について口頭と書面にて十分な説明を行い,署名によって同意を得た後に実施した.【結果】背景因子および薬物療法と運動療法の実施状況については DN群と非DN群の間に有意差は認められなかった.足趾筋力ではDN群の方が非DN群と比較して有意に低値を示した(3.11±1.41 vs 4.38±1.51,p=0.0296).【考察】本研究で測定した足趾筋力は第1趾と第2趾間の挟み込む力である.第1趾は屈曲に伴い外転方向に,第2趾以降は屈曲に伴う内転方向への運動であり,直接作用する筋は母趾内転筋と底側骨間筋である.さらに挟み込む動作は足趾の複合的な運動であるため,これらの筋以外にも間接的に作用する筋は多く存在している.よって,第1趾と第2趾間の挟み込む力を測定することにより,足部筋力を総合的に判定することが可能ではないかと考えている.今回の検討から,糖尿病性神経障害を合併することによって,これらの筋力が低下している可能性が示唆された.足趾筋力と10m歩行時間との間には負の相関関係が示されており,歩行能力を低下させることが明らかとなっている.さらに糖尿病による足部の関節可動域制限や変形なども加わることでバランス機能が低下し,最終的には転倒のリスクを増大させることが予想される.以上のことから,足趾筋力の低下を考慮した理学療法が必要となることが考えられた.【理学療法学研究としての意義】本研究から足趾筋力の低下は,最近注目されている2型糖尿病患者の運動機能障害の一つとして考えられる.この先,糖尿病患者数の増加に伴い,糖尿病性神経障害を合併した患者も確実に増加することが予想される.今回の結果は,今後の2型糖尿病に対して理学療法プログラムを作成するうえで有効である可能性が示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100080-48100080, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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