変形性膝関節症患者の運動機能障害を予測するClinical Prediction Ruleの抽出

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  • 立ち上がり速度をアウトカムとした1年間の縦断研究

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抄録

【はじめに】 運動機能障害が起こると活動制限や転倒リスクが高まり,要支援・要介護状態に陥る可能性がある。そのため,保存療法を実施している変形性膝関節症(膝OA)患者に対する理学療法では,転倒予防や活動制限からの脱却が重要な目標の1つである。しかし,治療にもかかわらず,転倒予防や活動制限からの脱却が期待できない症例も少なからず存在しているのも事実である。したがって,それらの症例を早期に把握することによって,理学療法の妥当性や透明性を客観的に示すための根拠を提示できると考える。本研究の目的は,膝OA患者の基本属性・医学的属性・身体機能および立ち上がり速度を調査・測定し,1年後に運動機能障害が存在する状態を予測するClinical Prediction Rule(臨床予測モデル)を抽出することである。【方法】 対象はM病院整形外科で膝OAと診断され,保存療法を実施している外来患者のうち,下記の取り込み基準を満たし協力が得られた40名(男性10名,女性30名,年齢74.2±7.5歳)であった。取り込み基準は,上肢支持なしで椅子からの立ち上がりが可能な者とした。なお,本研究対象者は,すべて内側型膝OA患者であった。研究デザインは前向きコホート研究で,ベースライン調査として基本属性である性別・年齢・身長・体重の4項目,医学的属性である障害側(両側性または片側性)・非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)使用の有無・関節内注射の有無・関節穿刺排液の有無の4項目,身体機能である膝伸展筋力・膝屈曲筋力・大腿四頭筋に対するハムストリングの筋力比(H/Q比)・疼痛(VAS)・膝関節伸展可動域・膝関節屈曲可動域の6項目の調査および測定を行った。さらに追跡調査として,ベースライン調査から約1年後の5回立ち上がりテスト(TCS-5)の測定を行った。統計解析は,TCS-5が8.3秒以上の者を高運動機能障害群,8.3秒未満の者を低運動機能障害群として分け,2群の身体機能の比較を行った。また,身体機能とTCS-5とのROC曲線分析を行い,カットオフ値を算出した。さらに,TCS-5をアウトカムとしたロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析によって抽出された変数の偏回帰係数(PRC)を基に,標準偏回帰係数(SPRC)を算出し,アウトカムへの影響度を重み付けしたうえで各身体機能を得点化した尺度(運動機能障害予測スケール)の合計得点とTCS-5とのROC曲線分析を行い,特性を算出した。統計ソフトはSPSS Statistics 19を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究は倫理委員会の承認(承認番号:08-14)を得て実施し,対象者には書面および口頭にて本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】 低運動機能障害群と比較して,高運動機能障害群では膝伸展筋力と膝屈曲筋力が有意に弱く,VASが有意に強かった。また,1年後に運動機能障害が存在する可能性が高い症例のカットオフ値は,膝伸展筋力30.9%以下,膝屈曲筋力19.2%以下,VAS 0.7点以上であった。さらに,検査前確率を40名中22名が高運動機能障害群であったことを踏まえて55.0%とすると,運動機能障害予測スケールの合計得点が2点の時の陽性尤度比(LR+)は5.7,検査後確率は87.5%,3点の時のLR+は9.0,検査後確率は91.7%であり,合計得点が高くなるに従い上昇した。【考察】 本研究の結果より,膝伸展筋力と膝屈曲筋力およびVASの検査結果の組み合わせにより,1年後に運動機能障害が存在する確率を高い精度で予測できることが示唆された。すなわち,3つの検査から構成される臨床予測モデルのうち,膝伸展筋力30.9%以下,膝屈曲筋力19.2%以下,VAS 0.7点以上であった場合,LR+が9.0となり一定の判別能力を有するため,転倒予防や活動制限からの脱却が期待できない症例を把握することができる可能性がある。本研究の限界として,アウトカムを追跡調査時の立ち上がり速度としたため,治療効果については言及できないことが挙げられる。さらに,本研究はシングルアームであるため,抽出された臨床予測モデルが治療成績の予測因子なのか,そうでないのかを判別できないことが挙げられる。今後の課題として,臨床予測モデルの妥当性の検証や臨床予測モデルを活用した治療成績の比較について検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究では,適切な臨床推論・理学療法診断に基づく治療を推進していくための一手法として,理学療法士が検査可能な身体機能の検査結果を用いて,運動機能障害を予測する臨床予測モデルを抽出することができた点に意義があると考える。さらに,本研究で抽出された臨床予測モデルを活用することによって,治療成績や医療費削減への影響を検討できるため,理学療法学の構築に寄与できると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100102-48100102, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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