不動によるラットヒラメ筋の線維化の発生メカニズムにおける分子基盤の検討

DOI
  • 本田 祐一郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座  運動障害リハビリテーション学分野
  • 近藤 康隆
    日本赤十字社長崎原爆諫早病院 リハビリテーション科
  • 佐々部 陵
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座 理学療法学分野
  • 片岡 英樹
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座  運動障害リハビリテーション学分野 社会医療法人長崎記念病院 リハビリテーション部
  • 坂本 淳哉
    長崎大学病院 リハビリテーション部
  • 中野 治郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座 理学療法学分野
  • 沖田 実
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座  運動障害リハビリテーション学分野

抄録

【目的】筋性拘縮は関節の不動によって惹起されるが,その主な病態のひとつとして骨格筋の線維化が挙げられる.この病態は筋膜の主要な構成成分であるタイプI・IIIコラーゲンの過剰増生に起因するといわれているが,その発生メカニズムに関する分子基盤は明らかになっていない.一方,分子基盤の解明が進んでいる他臓器の線維化の発生メカニズムに着目すると,コラーゲン産生の中心的役割を担う線維芽細胞や筋線維芽細胞の動態変化にtransforming growth factor-β(TGF-β)が関与すると指摘されている.具体的にはTGF-βは線維芽細胞を活性化する作用に加え,線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を促進する作用も有するといわれている.さらに,近年の先行研究によれば組織が低酸素状態に陥った場合,その刺激自体が線維芽細胞に働きかけ,TGF-βを介した筋線維芽細胞への分化過程を賦活化すると報告されている.つまり,骨格筋の不動によってTGF-βの発現増加や低酸素状態が惹起されることが線維化,ひいては筋性拘縮の発生メカニズムに関与すると仮説できるが,この点の検証は今のところ行われていない.そこで,本研究では不動化したラットヒラメ筋におけるタイプI・IIIコラーゲン,筋線維芽細胞,TGF-β1 ならびに組織が低酸素状態に陥った場合に発現するhypoxia inducible factor-1 α(HIF-1 α)の変化を検索し,不動に伴う骨格筋の線維化の分子基盤について検討した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット10 匹を用い,両側足関節を最大底屈位で4 週間ギプスで不動化する不動群(n = 5)と同期間,通常飼育する対照群(n = 5)に振り分けた.不動期間終了後は麻酔下で両側ヒラメ筋を摘出し,右側試料は凍結横断切片を作製した後,一部の切片に対して抗タイプI・Ⅲコラーゲン抗体を用いた蛍光免疫染色を実施した.そして,画像解析ソフトNIS-Elements(Nikon社製)を用い,筋周膜,筋内膜それぞれの発光輝度を半定量化した.また,一部の切片に対しては筋線維芽細胞のマーカーである抗α-smooth muscle actin(α-SMA)抗体を用いた免疫組織化学的染色を実施し,筋線維100 本あたりの陽性細胞数を算出した.一方,左側試料はreverse transcription polymerase chain reaction 法に供し, HIF-1 α,TGF-β1,α-SMAならびにタイプI・IIIコラーゲンのmRNA発現量を定量化した.なお,その際にはinternal controlにglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を用い,正規化を行った.統計処理には対応のないt検定を適用し,危険率5%未満をもって不動群と対照群の有意差を判定した.【倫理的配慮】本実験は長崎大学動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】タイプI・IIIコラーゲンの蛍光免疫染色像を検鏡した結果,不動群は筋周膜,筋内膜に強い発光を認め,その画像解析の結果でも不動群は対照群より有意に高値を示した.そして,タイプI・IIIコラーゲンmRNA発現量も不動群は対照群より有意に高値を示した.また,α-SMAの陽性細胞数ならびにα-SMA ,TGF-β1,HIF-1 αそれぞれのmRNA発現量は,いずれも不動群が対照群よりも有意に高値を示した.【考察】今回の結果から,不動群のヒラメ筋の筋周膜,筋内膜においてはタイプI・IIIコラーゲンの増加を認め,これらのmRNA 発現量も増加していることからコラーゲン産生が促されていると推測され,ヒラメ筋には線維化の徴候が発生しているといえる.そして,この発生メカニズムにおける分子基盤を検討した結果,不動群にはHIF-1 αの発現量増加を認め,これはヒラメ筋が低酸素状態に陥っていることを示唆している.また,不動群ではTGF-β1 ならびにα-SMAそれぞれのmRNA に発現量増加を認め,α-SMA陽性細胞数も増加していたことから,低酸素状態の惹起ならびにTGF-βの産生増加の相互作用によって線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化が促されたと推察する.つまり,このような分子基盤がコラーゲン産生の増加,すなわち線維化の発生に関与していると考えられ,本研究を通して筋性拘縮の発生メカニズムの一端が明らかになったのではないかと思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究は不動によって惹起される骨格筋の線維化の発生メカニズムにおける分子基盤の解明を目的に行った基礎研究である.そして,この成果は理学療法の治療対象である筋性拘縮の発生メカニズムの解明につながるものであり,理学療法学研究としても意義深いと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100141-48100141, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573312640
  • NII論文ID
    130004584719
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100141.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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