在宅復帰時の住宅改修から4年間の追跡調査を実施した症例

DOI
  • 園 英則
    介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部
  • 上杉 睦
    介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部
  • 筒井 麻理子
    介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部
  • 島村 彩香
    介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部
  • 松本 和
    介護老人保健施設ハートフル瀬谷リハビリテーション部

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抄録

【はじめに、目的】理学療法士の専門的な業務として,在宅復帰時の住宅改修がある.しかし,退所後に十分な追跡調査が行われず,改修後の使用状況が不明な場合が多い.特に,退所から数年が経過した利用者については,身体状況等の変化に伴い,在宅復帰時の住宅改修のみでは不十分な可能性が高い.生活支援系の研究報告において,住宅改修とその追跡調査は少ない.対象によって身体機能と生活環境は異なるため、住宅改修については,ケーススタディを蓄積していくことが重要である.そこで,今回,在宅復帰から4年が経過した症例を対象に,改修後の生活環境を4年間の経時的変化を調査したので報告する.【方法】対象は,当施設を4年前に退所し,週2回のデイケアに通う男性1名(90歳代,男性,要介護度3,既往歴:脳梗塞).評価方法としては,在宅復帰前後のFIMの総合点と改修箇所を比較した.住宅改修と福祉用具導入の指導を行った箇所は,以下の通りである. (1)門扉から玄関への段差解消期の使用状況,(2)寝室の状況,(3)トイレ周囲の環境,(4)浴室の環境,(5)屋内移動方法については,改修前後の具体的な検証を行った.また,主介護者より,介護保険サービスの利用状況,日常生活上の様子や変化について,聞き取り調査を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】研究の実施および個人情報の取り扱い方法に関してはヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針を順守し,対象者の説明と同意を得て実施した.【結果】FIMの点数は低下したが,在宅での介護保険サービスの利用状況は,4年前の在宅復帰時と変化はみられなかった.FIMの点数は,在宅復帰時94点,再訪問時89点であった.減点項目は,更衣上半身(6→5点),更衣下半身(6→5点),トイレ動作(6→5点),浴槽・シャワー移乗(4→3点),階段(3→2点)であった.改修内容と福祉用具の利用状況は以下の通りであった.(1)門扉から玄関への移動方法は,在宅復帰時は,介助による階段昇降と車椅子による段差解消機の併用を行っていたが,再訪問時は,階段昇降に転倒のリスクが高いため,立位保持にて段差解消機の使用を行っていた.(2)寝室の状況は,ベッドの種類に変化は無かったが,移動手段が車椅子から歩行器に変化した.(3)トイレ周囲の環境は,開き扉は引き戸に改修し,トイレ前の壁に手すりは設置しなかった.(4)浴室の環境は,浴室内でシャワーチェアを使用し,週1回の訪問入浴介護サービスを利用していた.(5)屋内移動方法は,FIMの点数に変化が無かった(5→5点)が,車椅子とつかまり歩きの併用から,歩行器歩行による移動となっていた.ご家族からの聞き取り調査では,四季の変化に伴い,活動意欲に変化がみられることが分かった.暖かい日は生活動線が広がり,想定外の場所で転倒するリスクが高まることが分かった.夏場は水分摂取量が増大し,夜間頻尿(一晩で3~4回程度)のため睡眠不足の日が多いことが分かった.夜間頻尿に対してポータブルトイレの設置を促したが,本人の強い拒否があり,移動により実際のトイレを使用した.【考察】在宅復帰時の住宅改修は,身体機能の低下のみを想定するのではなく,向上した場合の生活環境も視野に入れておく必要がある.在宅復帰時は,転倒リスクのため車椅子での屋内移動を検討したが,施設環境と異なり,十分なスペースが取れない点から不向きであった.そのため,歩行器の利用を促したところ,退所後1ヶ月で,自立歩行が可能となり,活動量の拡大につながったと考える.在宅生活は,本人の「意志」が直接,生活動作に反映することを考える必要がある.本症例のFIMの点数は,4年前と比較すると低下しているが,季節や意欲など情緒的な要素が関係すると,突発的に活動量が増大する場合があった.寒い時期,暖かい時期と,気候条件に伴って生活動線が縮小および拡大することを予測した環境整備が重要である.福祉用具の導入についても,身体機能の変化に伴い,在宅復帰時とは異なる方法で使用している場合があるので,経時的な評価が重要である.また,本人だけでなく主介護者からの情報収集も,適切な住環境整備に不可欠である.今後,改修後の変動する生活環境に対応するためには,訪問リハビリテーションなどの制度を利用し,経時的評価をすすめることが重要と考える.【理学療法学研究としての意義】介護保険制度改正による地域包括ケアの推進から,理学療法士に対する住環境整備のニーズは向上している.そのため,本症例のようなケーススタディを蓄積していくことに意義があると考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100144-48100144, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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