上位運動ニューロン症候群の歩行速度に関連する足関節運動機能障害の分析 脳卒中患者および脊髄疾患患者における検討

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抄録

【はじめに、目的】中枢神経損傷に伴う上位運動ニューロン症候群は陽性徴候、陰性徴候、適応徴候に分類される。伝統的に痙縮は拮抗筋の筋出力低下や協調運動障害をきたすとの考えから、痙縮の抑制が重要視された。しかし近年、脳卒中患者の上肢で陽性徴候よりも陰性徴候の方が機能的動作能力に関連するとの報告がある。また下肢や脳卒中以外の疾患で同様の検討は報告されていない。そこで本研究は脳卒中患者と脊髄疾患患者の足関節において陽性徴候、陰性徴候、適応徴候を測定し、歩行速度に関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院に入院中の脳卒中患者24 名 (68.3 ± 10.9 歳)、脊髄疾患患者19 名(67.8 ± 10.0 歳)とした。測定肢は脳卒中群は麻痺側、脊髄疾患群は利き足(ボールを蹴る側)とした。陽性徴候は痙縮をAnkle Plantar Flexors Tone Scale(APTS)のStretch Reflex(SR)を膝屈曲位で0 から4 の5 段階で評価した。当指標は数値が大きいほど神経学的な筋緊張が亢進した状態を意味する。陰性徴候は筋力、協調運動障害、感覚障害を測定した。足関節底背屈筋力はベルト固定したHand Held Dynamometer(μTAS F-1,アニマ)で測定し、体重比を指標とした。協調運動障害は椅子座位でFoot Pat Test(FPT)、単純反応時間(Simple Reaction Time: SRT)、リズム課題の3 種をデジタルカメラ(EX-FC100, CASIO)で測定した。FPTは足関節底背屈をできるだけ速く行い10 秒間で足底面が接地した回数を指標とした。SRTはメトロノーム(DB-30, Roland)の音が鳴ってから足底面が離地するまでに要した時間を指標とした。リズム課題は2.4Hzのメトロノームの音に合わせて足関節を底背屈(タップ)し、リズム誤差(指定のリズムから各タップに要した時間の平均を減じた値の絶対値)、リズム変動(各タップに要した時間の変動係数)を算出した。感覚障害はFugl-Meyer評価法下肢感覚合計点(FM-S)を指標とした。適応徴候は膝関節伸展位での足関節他動関節可動域(背屈ROM)を指標とした。歩行能力は10m歩行時間(最速)を指標とした。従属変数を10m歩行時間、独立変数をSR、底屈筋力、背屈筋力、FPT、SRT、リズム誤差、リズム変動、FM-S、背屈ROMとしてステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計処理はIBM SPSS Statistics(Version 19、SPSS Japan)を使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には書面と口頭で説明を行い自筆あるいは御家族の代筆により書面に同意を得た。なお本研究は榛名荘病院倫理審査委員会にて承認を受けた。【結果】測定結果は次の通りで、SRとFM-Sは中央値(四分位範囲)、その他は平均値±標準偏差値で示す。脳卒中群と脊髄疾患群それぞれ、SRは0.5 (1.8)、1.0(2.0)、底屈筋力体重比は0.39 ± 0.21、0.44 ± 0.16、背屈筋力体重比は0.13 ± 0.09、0.13 ± 0.06、FPTは23.0 ± 10.8 回、29.7 ± 7.9 回、SRTは0.30 ± 0.07 秒、0.25 ± 0.05 秒、リズム誤差は0.08 ± 0.13 秒、0.03 ± 0.07 秒、リズム変動は0.20 ± 0.15、0.09 ± 0.03、FM-Sは6.0(2.7)、6.0(1.0)、背屈ROMは15.0 ± 7.1°、15.5 ± 4.7°、10m歩行時間は19.6 ± 22.2 秒、10.2 ± 7.6 秒だった。10m歩行時間を従属変数としたステップワイズ重回帰分析の結果、脳卒中群ではリズム誤差と底屈筋力が採択され、標準偏回帰係数は各々0.885、0.170 であり、R2値は0.909、F値は55.87 だった。脊髄疾患群ではSRT とリズム誤差が採択され、標準偏回帰係数は各々0.514、0.502 であり、R2値は0.816、F値は40.82 だった。【考察】本研究の対象者は脳卒中群、脊髄疾患群ともに痙縮は軽度から中等度の者が多かった。両群で重回帰式の決定係数が高値を示し、モデル適合が良好だった。これは採択された変数が足関節運動機能のみでなく、下肢粗大運動機能や認知機能等を含む歩行能力に関与する機能と関連性が強いためであった可能性がある。採択された変数はいずれも陰性徴候であり、特に時間的協調性が強く歩行速度に関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は痙縮が重度ではない脳卒中患者、脊髄疾患患者の足関節において、より積極的に陰性徴候の改善を志向した治療を展開すべきとの見解を支持する結果となった。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100173-48100173, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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