当院介護予防通所リハビリテーション利用者の生活空間に関わる因子の検討

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抄録

【はじめに、目的】介護予防通所リハビリテーション(以下、介護予防通所リハ)における理学療法士の役割は、心身機能の維持や向上、閉じこもりの予防、介護負担の軽減など様々なものがある。その中でも、我々は利用者の心身機能低下を予防し、活動性向上を図ることが重要な課題であると考えている。これまで、我々は一般高齢者や二次予防高齢者を対象にLife space assessment (以下、LSA)を用いて生活空間に関わる身体機能因子の検討を行ってきた。臼田らの報告によると、LSAは活動水準としての移動評価指標として有用であると述べている。しかしながら、第39回四国理学療法士学会において、我々は生活空間が広く手段的日常生活活動が自立した高齢者のLSAについては移動能力指標の影響が小さいことを報告し、他因子を含めた検討や介護保険サービス利用者での検討の必要性を認めた。そこで、本研究では当院介護予防通所リハ利用者を対象に生活空間に関わる諸因子の検討を行い、若干の知見を得たので考察を加えて報告する。【方法】対象は平成24年11月現在、当院介護予防通所リハを利用する要支援者で、測定に支障となる疾病及び障害を有している者を除いた28名(男性:7名、女性21名、平均年齢81.9±6.0歳)である。方法は、生活空間を把握するためにLSAを評価した。身体機能評価としては握力、30秒椅子立ち上がりテスト(以下、CS30)、Timed up and go test(以下、TUG)を、活動能力の評価として老研式活動能力指標(以下、老研式)を調査した。その後、生活空間に関わる因子の検討を行うため、LSAの合計点数を従属変数、性別、要介護度、老研式(手段的自立、知的能動性、社会的役割の各項目の点数)、握力、CS30、TUGの8項目を説明変数としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。なお、多重共線性を考慮して説明変数間の相関係数が高値を示したものは変数から除外し分析を実施した。全ての有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として、全ての対象者に本研究の趣旨を説明し測定及び学会発表等の同意を得た。【結果】各評価の平均値はLSAが69.1±21.8点 、老研式が9.5±3.1点(手段的自立3.8±1.6点、知的能動性3.3±0.9点、社会的役割2.4±1.4点)、握力が21.5±5.5kg、CS30が11.9±4.4回、TUGが14.0±4.7secであった。重回帰分析の結果、LSAを説明する因子は、握力、TUG、手段的自立の3変数が抽出され、このモデルの自由度調整済み決定係数はR²=0.4104(p<0.01)であった。予測式はy=0.929×握力-1.317×TUG+6.032×手段的自立+44.55となった。また、標準化偏回帰係数は握力がβ=0.235、TUGがβ=-0.281、手段的自立がβ=0.444であった。【考察】本結果より対象者のLSAは比較的高い水準を保っていることが認められた。これは、対象者の活動水準が高いことを反映している一方で、介護予防通所リハの送迎サービスによってLSAの点数が向上しているとも考えられ、対象者が能動的に活動しているかという点で今後も詳細な調査が必要である。また、当院介護予防通所リハ利用者の生活空間に関わる因子は、握力、TUG、手段的自立であり、生活空間の約4割を説明する結果となった。一般的に介護予防通所リハで行われる理学療法は、筋力や移動能力を高い水準で保つことを目的としたトレーニングや運動指導などが多い印象を受ける。しかしながら、本結果から手段的自立を高い水準で保つ必要性も示唆され、従来の方法に加えて、より高度で複雑な身体機能や認知機能を必要とする、買い物や食事の準備、バスや電車の利用などの実際の生活場面を想定したトレーニングを行う必要性が示唆された。今後の課題としては、さらに対象者数を増やし要支援者の特性を明らかにすること、寄与率が4割であったことを考慮すると、家屋構造や人とのつながりなどの他因子も含めて検討すること等が挙げられる。【理学療法学研究としての意義】介護予防通所リハにおける理学療法士の役割は、筋力や移動能力の維持改善を目的としたトレーニングや運動指導などに向けられていることが多い印象を受けるが、要支援者の生活空間を広げるためにはさらに手段的自立を高い水準で保つことが重要であり、本研究が今後の介護予防通所リハにおける理学療法士の役割を明確にする一要因になると示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100232-48100232, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550442624
  • NII論文ID
    130004584787
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100232.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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