要介護者の心理面から介護者の介護負担感の検討

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抄録

【はじめに、目的】 老々介護となっている在宅では主介護者の精神的疲労は大きくなっている。介護負担感の先行研究では主介護者だけでなく要介護者の身体状態、心理状態が影響していると報告している。要介護者、周囲の人が主介護者の心理面を理解しているかは重要と考えるが、今まで要介護者側から主介護者の介護負担感をどう捉えているかの検討は十分にされていない。そこで本研究は要介護者が主介護者の介護負担をどの程度感じているかを明らかにし、主介護者の介護負担感に関与している要因を検討することを目的とする。【方法】 訪問看護ステーションにおいて理学療法士(PT)による訪問リハビリを実施した主介護者51名(平均年齢59.8±13歳)、要介護者51名(平均年齢74.3±23.1歳)の51組102名を対象とした。調査期間は平成24年7月下旬~8月上旬にアンケ-ト配布後、後日回収する手法で行った。調査項目は主介護者に対して年齢、健康状態、介護時間、睡眠時間、介護負担感としてZarit介護負担尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8)、主観的幸福感としてPGCモラール・スケールを調査した。要介護者に対しては年齢、FIM、認知度、要介護度、痴呆老人の日常生活自立度(寝たきり度)、社会資源の利用、転倒の有無、PGCモラール・スケールとした。さらに主介護者の介護負担感を考えられるようにJ-ZBI_8の8項目の質問項目を「困ってしまうと思うことがありますか」を「困ってしまうと思うことがあると思いますか」のように変更したJ-ZBI_8変法を作成し調査をした。セラピスト4名(平均経験年数10.8±5.1年)に対してJ-ZBI_8変法、介入項目の調査をした。統計解析には主介護者の介護負担感により高負担群(高群)と低負担群(低群)の2群に分類し、各測定項目をカイ二乗検定、対応のないt検定を用いて群間比較した。主介護者のJ-ZBI_8と要介護者・セラピストのJ-ZBI_8変法との比較はSpearmanの順位相関係数を求め検討した。統計処理はSPSS15.0を用い、全ての統計処理において有意水準5%と未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に研究の主旨を紙面で説明し、自由意思に基づく研究参加の同意を得た。【結果】 J-ZBI_8の得点の平均値は9.2点であり、9点で高低群を分類した。主介護者の高群12.8±4.2(平均値±標準偏差)点、低群4.8±1.9点であった。J-ZBI_8変法は要介護者の高群12.3±7.8点、低群4.4±4.9点、セラピストの高群12.8±5.8点、低群7.3±6.7点であり、それぞれ両群間で有意差を認めた(p<0.05)。また、主介護者のJ-ZBI_8と要介護者およびセラピストのJ-ZBI_8変法の相関関係は要介護者r=0.70(p<0.01)、セラピストr=0.62(p<0.01)であった。主介護者のPGCモラール・スケールは高群7.6±3.6点、低群10.7±3.2点であり、高群で有意に低値を示した(p<0.05)。要介護者のFIMは低群75.6±41.2点、高群69.4±32.8点であり、高群で低い傾向であった(p=0.063)。外出時間は高群5.7時間、低群2.3時間であり、高群で有意に高値を示した(p<0.01)。セラピストの介入は「介護に関して相談をしている」の項目が高群で有意に多くなっていた(p<0.05)。その他の項目に関して両群間で有意差は認めなかった。【考察】 本研究では要介護者の心理状態に着目し、主介護者の介護負担感への影響を検討した。主介護者のJ-ZBI_8と要介護者のJ-ZBI_8変法との比較で高い相関を認めたことより、主介護者の介護負担感に関して要介護者も介護負担を感じとっている結果となった。また、高群のADLは低い傾向を示しており、身体的に自立していないことは要介護者が介護負担をかけていると感じる一つの要因と考えた。また、主観的幸福感は要介護者において差を認めず、主介護者の高群の方が低くなっていた。つまり、要介護者よりむしろ主介護者の主観的幸福感が介護負担感に影響していることが示唆された。さらに、ソーシャル・サポートではセラピストが高群に対して積極的に相談をしている結果であり、介入していても介護負担が高いのは、介護負担を感じているから積極的にサポートしていたのか、サポートの方法に問題があるのか今回の研究からは不明であるが、主介護者と話し合える機会を作っていく必要があると考えた。したがって、我々セラピストは要介護者も主介護者の介護負担を感じとっていることを把握し、主介護者が負担を抱え込まないような心理面でのサポートの重要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 要介護者の心理状態に着目し、要介護者も主介護者の介護負担感を感じ取っていることを明らかにした。要介護者の心理状態を把握するとは、介護負担の軽減に向けた介入方法を支援する一助になると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100240-48100240, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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