健常者における寝返り動作の類型化 三次元動作解析システムを用いた分析

DOI
  • 三木 啓嗣
    東京都済生会中央病院リハビリテーション科 首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域
  • 新田 收
    首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域

抄録

【はじめに、目的】寝返り動作はベッド上での移動性スキルの重要な要素であり,臥位-座位行動や臥位-立位行動の一部で多くの運動課題に不可欠な構成要素である.また,臨床場面において頭頸部を含めた体幹機能が重要視されており,体幹機能促通を目的とした治療や動作指導が行われている.その際,動作可否だけでなく動作の質やパフォーマンスを評価することが重要だが,それには正常動作パターンや正常運動の理解が必要不可欠である.しかし,理学療法領域における重要性に比して研究は少なく,特に客観的指標を用いた運動学的・運動力学的記述が不十分であり,寝返り動作を客観的指標に基づき総合的に類型化・解析した研究はない.そこで,本研究の目的は健常者における寝返り動作を客観的指標に基づき類型化して,各動作パターンの特徴を明らかにし,理学療法評価・治療の一助とすることである.【方法】対象は整形外科的・神経学的疾患のない健常男性30 名とし,属性は平均年齢(年齢幅)21.6(19 〜30)歳,平均身長(標準偏差)171.9(6.3)cm,平均体重(標準偏差)62.9(7.8)kgであった.計測課題は,背臥位から腹臥位(右回り)までの寝返り動作とし,動作方法の指示は行わず練習後に言語的合図のみで至適速度にて3 試行実施した.なお,データ補正のために課題動作計側前に静止立位の計側を行った.測定には三次元動作解析システム(VICON社製NEXUS)を使用し,赤外線カメラ8 台と赤外線反射マーカーを用いて行った.マーカーは体表面上の所定の位置に静止立位時39 個,動作計測時27 個の標点を設置・貼付し,課題動作中のマーカー位置を計測した.計測により得られた標点の三次元座標データを用いて,課題動作中の頭部,上部体幹,骨盤の関節角度を算出した.関節角度の算出には,プログラミングソフト(VICON社製BODY BUILDER)を使用し,マーカー補正とオイラー角の算出を行った.なお,データ解析区間は動作開始から骨盤が床面に対して90°回旋位に至るまでとし,1 動作を100%として時間を正規化した.算出パラメータは,各関節の最大・最小・平均関節角度と,最大・最小関節角度到達時間(%)とした.統計学的検討はIBM SPSS Statistic Ver.19 を使用し,各パラメータを変数としたクラスター分析により寝返り動作を類型化した.さらに,寝返り動作の各類型を目的変数,各パラメータを説明変数として一元配置分散分析を行い,有意差を認めた場合はScheffeの多重比較検定を行った.なお,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認を得た上で実施し,研究対象者には実験開始前に書面及び口頭にて本研究の目的と内容に関する説明を行い,書面にて同意を得た.【結果】対象者30 名の各3 試行,計90 試行のクラスター分析の結果,3 群に類型化できた.各群をA・B・C群とすると,A群が56 試行(62.2%)で最多,次にB・C群がともに17 試行(18.9%)であった.各群の特徴項目として,A群は,回旋のパラメータに有意差を示さなかったため上部体幹‐骨盤間の回旋が最小で,上部体幹最大屈曲角度15.2(14.1)°,上部体幹平均角度は屈曲0.1(9.2)°,上部体幹最大右側屈角度8.6(8.8)°で有意に高値であり,A群を体幹屈曲パターン(体幹回旋最小)とした.B群も同様に上部体幹‐骨盤間の回旋が最小で,到達時間のパラメータにて上部体幹最小伸展38.2 (17.8)%,上部体幹最大伸展93.6 (11.1)%,骨盤最小前傾38.6 (18.3) %,骨盤最大前傾74.5 (37.4)%で有意差を認めたことから常に上部体幹伸展位,骨盤前傾位であった.これよりB群を体幹伸展パターン(体幹回旋最小)とした.C群は,上部体幹,骨盤ともに有意差を認めたパラメータの多くが回旋で,さらに骨盤最小右回旋5.5(6.0) °・21.1(10.2)%,骨盤最大右回旋47.1(15.0) °・91.9(10.8)%,骨盤平均右回旋 21.6(8.8)°で有意差を認めたことから,動作開始直後20%で骨盤右回旋にて先行し,上部体幹‐骨盤間の回旋を伴うパターンであった.これよりC群を体幹回旋パターン(骨盤先行)とした.【考察】健常者の寝返り動作を客観的指標と統計学的解析を用いて類型化したところ 3 群に分けられた.さらに,3 群における分散分析と多重比較検定により体幹回旋と体幹屈伸が3 群を分ける要素であった.各群の特徴として,C群はA・B群と比べて体幹回旋角度が有意に大きく,A・B群に関してはA群が体幹屈曲,B群が体幹伸展に特徴を認めた.臨床場面においては,対象者に合わせた動作パターンの選択や寝返り動作可否の客観的な運動学的指標になりうると考えられる.【理学療法学研究としての意義】寝返り動作において体幹機能に着目することにより臨床的に活用可能な動作パターンの大分類を抽出することができ,理学療法評価・治療の一助となりうる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100285-48100285, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680550477312
  • NII論文ID
    130004584829
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100285.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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