Anodal tDCSは不全脊髄損傷患者に対するpatterned electrical stimulationによる相反性抑制の修飾効果を増強する

DOI
  • 山口 智史
    慶應義塾大学大学院 医学研究科 日本学術振興会
  • 藤原 俊之
    慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室
  • Yun-An Tsai
    慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室 Taipei Veterans General Hospital and National Yang Ming University,
  • 里宇 明元
    慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室

抄録

【はじめに、目的】脊髄相反性抑制(RI)は,運動皮質からの入力によって,その抑制が修飾される.一方,皮質からの経路が障害された不全脊髄損傷患者では,RIが障害されていることが知られ (Okuma, 2002),このRIの障害は,運動障害と関係すると考えられている(Fung, 1989).Patterned electrical stimulation (PES)は,末梢神経からの高周波感覚刺激によって,脊髄レベルでRIを増強することができる(Perez, 2003).Fujiwara(2011)は,PES前に経頭蓋直流電気刺激(tDCS)により皮質興奮性を変化させることで,PESによって誘導されるRIの増強を修飾できることを報告している.そこで本研究では,tDCSとPESの同時適用による不全脊髄損傷患者のRIと足関節運動機能に対する効果を検討した.【方法】対象は不全脊髄損傷患者11名とした. 年齢は51.8±10.7歳(平均値±標準偏差),発症後年数は中央値3.2年[0.6‐12.1]であった.機能障害レベルはAmerican Spinal Injury Association classificationで,Cが2名,Dが9名であった.また年齢を合わせた健常成人10名(平均年齢50.7±8.9歳)を対照群とした.PESは周波数100Hzの刺激パルス10発を1 trainとして,この刺激trainを0.5Hzで20分間刺激した.刺激は総腓骨神経に行い,刺激強度は前脛骨筋の運動閾値とした.tDCSは,刺激強度を1mAとし20分間行った.陽極電極は左側下肢一次運動野の直上に置き,陰極電極を対側右眼窩上に置いた.不全脊髄損傷患者は,以下の2条件を実施した.1) PESと最初の15秒だけanodal tDCSを加える(sham tDCS+PES),2)PESとanodal tDCSを同時に加える.健常成人においては,上記の2条件に加えて3)anodal tDCSのみを行った.課題は3日間以上あけてランダムに実施した.評価は,ヒラメ筋H波を用いた条件‐試験刺激法により,RIを測定した.試験刺激は脛骨神経にて行い,M波最大振幅の10~20%の振幅のH波を誘発した.条件刺激は腓骨小頭部で総腓骨神経を刺激し,強度は前脛骨筋の運動閾値とした.また条件‐試験刺激間隔は,2,20,100msとした.解析は,試験刺激のみと条件刺激を与えたH波振幅の比を求め,条件刺激によるH波振幅の減少をRIの強さとした.測定は介入前,介入終了直後,介入終了後10分および20分に実施した.また不全脊髄損傷患者においては,運動機能の評価として,終了後20分に10秒間の足底背屈運動を記録し,運動回数を計測した.統計解析は,反復測定2元配置分散分析(条件×時間),多重比較検定にはBonferroni補正した対応のあるt検定を用いた.またRI改善の差(介入前-介入終了後20分)および運動機能における改善の差(介入終了後20分-介入前)を求め,RIの改善と運動回数改善との関係をPearsonの積率相関係数で検討した.さらに,不全脊髄損傷患者と健常成人の効果の違いを検討するため,RIの変化について共分散分析を用いて解析を行った.有意水準は5%とした.【説明と同意】所属施設の倫理審査会での承認後,被検者に実験内容を十分に説明し,本人の意志により書面にて同意をえた.【結果】不全脊髄損傷患者において,RIの2msおよび100msで交互作用(F[3,30]=10.08,p<0.001,F[3,30]=7.79,p=0.001)を認めた.どちらのRIにおいても,Anodal tDCS+PESで,介入前と比較し,介入後すべての評価時点で有意にRIが増強した(p<0.01).また,sham tDCS+PESと比較し,すべての評価時にRIが有意に増強した(p<0.05).健常成人では,RIの2msおよび100msで,交互作用を認めた(F[6,54]=9.12,p<0.001,F[6,54]=10.37,p<0.001).運動機能の評価では,運動回数に交互作用を認めた(F[1,10]=13.65,p=0.004).Anodal tDCS+PESにおいて,介入前と介入終了後20分で有意に改善した(p<0.05).RIの改善と運動回数改善の相関係数は,RI(2ms) 0.69,RI(100ms) 0.62で有意な正の相関を認めた(p<0.01).効果の違いは,不全脊髄損傷患者において,健常成人と比較し,RIの2msおよび100msで有意に高い改善効果を認めた(p<0.001).【考察】Anodal tDCSとPESの同時刺激は,不全脊髄損傷患者および健常者のRI(2msおよび100ms)を増強し,その効果を持続させた.さらに不全脊髄損傷患者においては,運動機能を改善させ,その改善はRI改善と相関を認めた.またRIの修飾効果は,不全脊髄損傷患者で高く,運動皮質からの入力が低下している不全脊髄損傷患者において,周期的な感覚入力と同時に,皮質興奮性を高めることが重要であることが示唆された.今後,長期効果について検討していきたい.【理学療法学研究としての意義】Anodal tDCSとPESを組み合わせることで,中枢神経疾患における反射調節障害および運動機能障害を改善し得る可能性を示した.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100360-48100360, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390282680549172864
  • NII論文ID
    130004584890
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100360.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ