上肢随意運動の適応学習の過程における対側上肢脊髄神経機能の興奮性の変化

DOI
  • 嘉戸 直樹
    神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科
  • 伊藤 正憲
    神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科
  • 藤原 聡
    神戸リハビリテーション福祉専門学校理学療法学科
  • 鈴木 俊明
    関西医療大学保健医療学部臨床理学療法学教室

抄録

【はじめに、目的】運動適応学習の過程では、脳内で運動遂行機能の改良が起こるとされている。例えば、示指の伸展のような簡単な運動であっても短時間のトレーニングで運動に関与する筋活動が変化し、運動野の興奮性が変化することが知られている。我々はこれまで困難度や複雑性の異なる随意運動が、その運動に直接関与しない筋に及ぼす影響について検討し、困難度が高い上肢の随意運動時には対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加すると報告した。しかしながら、運動の適応過程における変化については検討していない。本研究では、困難度の異なる一側上肢随意運動の適応学習の過程における対側上肢脊髄神経機能の興奮性の変化について誘発筋電図のF波を用いて検討した。【方法】対象は右利きの健常成人20 名(平均年齢26.6 ± 4.0 歳)とした。検査姿勢は椅子座位とし、検査を通して左上肢以外の身体を動かさないよう指示した。F波はViking Quest(Nicolet)を用いて、安静時と運動課題実施中に右短母指外転筋より導出した。F波導出の刺激条件は、強度をM波が最大となる刺激強度の120%、頻度を0.5Hz、持続時間を0.2msとして、右手関節部正中神経を連続30 回刺激した。刺激電極は、一般的な運動神経伝導速度検査で使用する2 極の表面刺激電極を用い、陰極を近位側に、陽極をその遠位側に配置した。記録条件は、探査電極を右短母指外転筋の筋腹上、基準電極を母指基節骨上に配置し、接地電極は前腕部に配置した。運動課題は左手でボールペンを持ち、机の上に置いた2 個の標的間を反復する移動運動とした。運動の頻度は1Hzとし、20cm間隔で配置した2 つの標的にペン先が正確につくよう実施した。課題の困難度は標的幅を変化させることで設定した。標的は課題1 では幅5cm×長さ15cm、課題2 では幅0.5cm×長さ15cmとした。移動運動は10 回の運動を1 セッションとして3 セッション実施し、1 〜10 回をセッション1(S1)、11 〜20 回をセッション2(S2)、21 〜30 回をセッション3(S3)とした。F波の分析項目は、振幅F/M比とF波潜時とした。振幅F/M比は、F波の頂点間振幅の平均とM波の最大振幅との比から算出した。立ち上がり潜時は、記録されたF波の平均潜時を算出した。各セッションにおける安静時と各課題時の振幅F/M比と立ち上がり潜時をDunnettの検定にて比較した。なお、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の趣旨を十分に説明し、同意が得られた場合には研究同意書にサインを得た。なお、本研究は神戸リハビリテーション福祉専門学校の倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】S1 の振幅F/M比は安静時に比べ課題1 と課題2 において有意に増加した(p<0.05)。S2 の振幅F/M比は安静時と比べ課題2 において有意に増加した(p<0.01)。S3 の振幅F/M比は安静時と比べ課題2 において有意に増加した(p<0.05)。立ち上がり潜時は全てのセッションにおいて有意差を認めなかった。【考察】F波は運動神経軸索の末梢部での刺激によるα運動ニューロンの逆行性興奮に由来すると考えられており、脊髄運動ニューロンプールの興奮性や、より上位の神経機能の検査として応用されている。本結果より、S1 では安静時に比べ課題1 と課題2 において運動と対側の上肢脊髄神経機能の興奮性が増加するのに対し、S2 とS3 では安静時と比べ課題2 において運動と対側の上肢脊髄神経機能の興奮性が増加することが示唆された。一側上肢の運動課題実施中に対側上肢脊髄神経機能の興奮性が増加する要因としては、先行研究と同様に上肢の随意運動にともなう固有感覚入力や上位中枢からの促通効果による影響を考えた。各セッションにおける結果の差異については運動適応学習による運動効率の変化が関与する可能性を考えた。課題1 では短時間で運動が効率的に行えるようになり促通効果が減弱したのに対し、精緻な運動が要求される課題2 では短時間で運動を効率的に行うことができず、各セッションで促通効果が変化しなかったと考えた。また、課題1 のように簡単な運動であっても、効率的な運動が困難な時期には促通効果が顕著になると考えた。【理学療法学研究としての意義】理学療法を行う際に一側上肢の随意運動が対側の上肢脊髄神経機構へ及ぼす影響について把握することは重要である。本研究より、一側上肢の随意運動による対側上肢脊髄神経機能への促通効果は運動適応学習により減少する可能性が示された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100364-48100364, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205572467840
  • NII論文ID
    130004584894
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100364.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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