理学療法士の新たな可能性、和装を主軸としての提案 第2報

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  • 下曽山 香織
    美純和装学処 医療法人 好古堂 リハビリテーション科

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抄録

【はじめに、目的】第47回日本理学療法学術大会において、和装動作は理学療法士が介入することで、肩疾病予防や健康増進に繋がる可能性があることを提示した。主宰する着物学校において、現在も理学療法士が動作指導を担い、和装初心者や肩関節及び胸腰椎疾患既往者が、無理なく着付けられる和装方法の選択、提案を行っている。前回は背面での帯結び動作に着目したが、今回は和装動作全体の流れに焦点を当てて検証し、和装が肩関節可動域に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は、肩関節及び胸腰椎疾患既往のない20代女性とし、日常的に和装する女性(和装群)15名、着物を身に付けた経験のない外国籍女性(西洋装群)15名の計30名とした。使用した着物、帯及び小道具は全て統一素材とし、和装群は自分で着付けを施し、西洋装群は同一着付師の口頭指導を受けながら自ら着付けを施した。両群共に、和装前後に肩関節可動域及び指椎間距離測定を実施した。統計学的検定には、符号検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿い実施した。全ての対象者に、研究目的、内容説明を口頭及び書面にて行い、同意を得た上で研究を進めた。また、本結果の公開についての許可を得ている。【結果】和装前において、和装群の自動及び他動肩関節伸展、内旋角度と自動内転、外旋角度は、西洋装群と比べ有意に拡大しており(P<0.05)、指椎間距離は有意に縮小していた(P<0.05)。肩関節屈曲、外転、他動内転及び外旋角度に有意差は見られなかった。また、和装後において、両群共に肩関節伸展、内転、外旋、内旋角度が有意に拡大し(P<0.05)、指椎間距離の縮小が確認された(P<0.05)。肩関節屈曲、外転角度に有意差は見られなかった。【考察】日本の伝統正装である和装は、着物を着付け、帯結びを行う一連の動作にて成立する。現代日本の女性着物の場合は、まず長襦袢、着物を着用した上で帯結びを施し、帯飾りを用いる手順であり、約16種類の小道具を必要とする。和装動作について述べると、着物は袖を通した後に左右手で着物端を把持し、肩関節約90度屈曲位を保ちながら外・内転及び外・内旋運動を行いながら裾合わせし、紐で骨盤上部を締める。次に、体幹前後面の補正を左右手で行い、第7胸椎付近を紐で締める。次に、長さ約3~4mの帯を第7胸椎から第3腰椎付近の範囲で体幹を囲むように巻きつけ、背面で小道具を使用し形を作る。最後に帯飾りで固定するが、ここまでには帯を体幹後面にて左手から右手へ手渡すこと2回、左右手で帯を結ぶこと1回、左右手で小道具を第7胸椎以上の高さに持ち上げること2回、その小道具の付属品を左右手で体幹後面から前面に向かって引き寄せた後に第7胸椎から第3腰椎付近の高さで結ぶこと4回が必要最低限の動作である。今回の結果より、和装の一連の動作は、肩関節全方向の運動を必要としており、特に伸展、内転、外旋、内旋可動域拡大の即時効果を得られることが示唆された。また、日常的に和装を行うことは、肩関節可動域運動を自主的に行うに等しいと考えられる。着付けや帯結び方法は様々であるが、当校では理学療法士が理学療法学的視点から和装を捉えたことにより、身体状況に沿った着付けと帯結び方法の選択が可能となり、身体に既往、愁訴を持つ者であっても和装技術向上を目指すことが出来ている。理学療法士の技術や知識は保健、医療、福祉分野に留まらず、あらゆる分野、体系において強く存在感を示すことが期待できると言える。日本文化継承の場においても、理学療法士がその能力を持って介入することで、疾病予防と健康増進を兼ね備えた伝統文化として、国民に広く受け入れられ、さらに海外交流の一手段としても発展していく可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】日本の伝統正装である和装は、文化継承のみならず、理学療法士が介入し、日常的に取り入れることで肩疾病予防や健康増進に繋がる可能性があり、理学療法士の活躍が期待できる新規参入分野の選択肢を増やすことができた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100486-48100486, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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