薬物・遺伝子操作を用いない培養系筋萎縮モデルでもユビキチン-プロテアソーム系による筋萎縮が起こる

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抄録

【はじめに、目的】様々な疾患の二次的障害として引き起こされる廃用性筋萎縮は、理学療法の重要な介入対象であるが、その予防・回復のメカニズムは十分に解明されていない。このメカニズムの解明のためには、培養細胞を用いた詳細な検証が必要である。しかし、従来の培養系筋萎縮モデルは、薬物や遺伝子操作を用いて強制的に筋萎縮をおこしており、シグナルの一部を止めただけのモデルである。臨床場面で実際に理学療法士が対峙する、複数の蛋白質分解・合成機構が絡む廃用性筋萎縮に近いとは言い難い。筋の廃用状態とは、筋活動の低下、すなわち元々あった筋に対する負荷が除かれた状態である。そこで我々は、電気刺激により筋細胞を周期的に収縮させ、負荷をかけた状態で培養し、刺激中断により筋にかかる負荷を除くと筋の横径が細くなるという筋萎縮モデルを作製した。一方、筋が萎縮する際、筋構成タンパク質は分解される。いつくか存在するタンパク質分解機構の中でも、ユビキチン−プロテアソーム系(ubiquitin-proteasome system:以下UPS)が廃用性筋萎縮に大きく関与していることが近年の研究によりわかってきた。そこで、本研究の目的は、我々の作製した筋萎縮モデルにおいても、実際の廃用性筋萎縮と同様にUPSの働きにより、筋の横径が細くなる現象が起きているのかどうかを確認することである。【方法】12 日目ニワトリ胚の胸筋から採取した筋芽細胞を、コラーゲンコートした培養皿に播種した。筋芽細胞が筋管細胞に分化する5 日目から電気刺激を開始し、筋収縮により力学的な負荷を与えた状態で培養した。2 日間周期的に筋を収縮させた後、電気刺激を中断し筋収縮を止め、筋細胞に加わる負荷を取り除いた状態で培養し、これを筋萎縮モデル(unload群)とした。unload群を、刺激中断時、中断1 時間、3 時間、6 時間、24 時間後にcell lysis bufferにより回収し、電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用い、k48 ポリユビキチン鎖の発現量を調べた。また、本萎縮モデルに、電気刺激中断と同時にユビキチン活性化酵素E1 阻害剤(UBEI-41)を25 μM/L加えた培地で培養したものをE1 阻害群とした。刺激中断直後の細胞及び、48 時間後のunload群、E1 阻害群を固定し、Troponin-Tとactinを免疫染色し筋線維の横径を測定した(n=各5)。群間の比較には、一元配置分散分析を用い、有意差が認められた場合Tukey法を用いて多群間比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(平成18 年 文部科学省)および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(平成18 年 日本学術会議)を遵守し、当大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】k48 ポリユビキチン鎖は、unload群(1、3、6 時間後)に発現が増加し、24 時間後には低下していた。また、刺激中断時に12.68 ± 0.83 μm(mean±SD)であった筋の横径は、unload群(48 時間後)で9.89 ± 1.19 μmとなり有意に小さかった。一方、E1 阻害群(48 時間後)の横径は12.46 ± 0.78 μmであり、刺激中断時の横径と有意な差は無かった。【考察】UPSはタンパク質を特異的に識別し分解するシステムである。UPSによるタンパク質の分解はE1 によるユビキチンの活性化をきっかけにおこる。活性化されたユビキチンはE2、さらにE3 へと渡される。E3 は標的となるタンパク質を認識し、そのタンパク質にユビキチンを結合させる。この反応が繰り返され、複数個のユビキチンからなるポリユビキチン鎖が形成される。なかでも、k48 ポリユビキチン鎖によって標識されたタンパク質は26Sプロテアソームにおいて分解されることがわかっている。このk48 ポリユビキチン鎖の発現増加が本モデルにおいてもみられた。また、本研究でE1 阻害剤により筋萎縮がほとんど抑制された。よって、本萎縮モデルでおこるタンパク質の分解には、実際の廃用性筋萎縮と同様にUPSのタンパク質分解機構の働きが大きく関与していることが判明した。以上のことより、本モデルはヒトや動物でおこる廃用性筋萎縮の培養系モデルとして妥当であると考える。今後本モデルを使用し廃用性筋萎縮の詳細なメカニズムの解明に挑んでいく。【理学療法学研究としての意義】長期臥床やギプス固定などによる廃用性筋萎縮は,筋力低下を引き起こし、ADL やQOL を低下させる。よって、いまだ不明な点が多い廃用性筋萎縮のメカニズムを明らかにし、効果的な萎縮抑制や回復促進のための理学療法の方策を検討する必要がある。本モデルは廃用性筋萎縮に対する、予防・回復のメカニズムの解明や、理学療法効果のエビデンスの確立に貢献するものであると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100586-48100586, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548530304
  • NII論文ID
    130004585064
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100586.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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