難治性潰瘍を呈した症例に対する創部を免荷した下腿義足の作製

DOI
  • 安岡 良訓
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 坪井 宏幸
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 大古 拓史
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 村上 真一
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 佐藤 秀幸
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 星合 敬介
    黎明会 北出病院 リハビリテーション科
  • 児嶋 大介
    和歌山県立医科大学附属病院 紀北分院 リハビリテーション科

抄録

【はじめに、目的】糖尿病(DM)や閉塞性動脈硬化症(ASO)を有した切断患者において断端潰瘍はよく見受けられ,創傷治癒の遅延が問題となる.元来,創傷治癒の遅延を認める場合,荷重や圧迫は血行障害を惹起し,創部の悪化に繋がることが懸念される.しかし,血行障害により創傷治癒遅延を認める患者に対し,全身状態の管理と創部の血行動態を確保する免荷式義足を用いることは,創部を悪化させることなく歩行訓練を実施できる可能性がある.そこで今回,DM及びASOを有し,下腿切断後に創傷治癒が遅延した症例に対し,創部のみ免荷が出来る義足を処方し,創傷治療と並行して歩行練習を実施し,歩行が自立した症例を経験したので報告する.【方法】症例は70歳代前半の男性.意識清明.MMSE30点.10年前よりDMを有し,インスリンにて血糖コントロールを行っていた.既往歴 として8年前 に右下肢ASOがあり,人工血管バイパス術を施行.しかし,閉塞が認められ,左下肢の自家静脈を採取しバイパス術を施行された.現病歴は平成23年4月初旬,血糖コントロール不良のため入院した.一度退院されるが,同年5月初旬に右第5趾外側部,踵部に潰瘍が形成され治療目的で再入院となった.磁気共鳴血管造影法上,右膝窩動脈の著明な閉塞及び右大腿動脈の狭窄を認めた.6月初旬には右下肢ASOとDM性壊死の改善が困難と判断され下腿切断術施行となった.術後2日目に理学療法が開始した.術後1週間目で車椅子を使用し,院内ADLはほぼ自立レベルとなった.術後3週目に回復期病棟へ転棟となった.創部は全抜糸するも縫合部は完全に治癒しておらず15から20mm程度の潰瘍があった.術後5週目,創傷治癒は認めずデブリードメントを施行した.術後7週目,創傷部は改善みられず,再度デブリードメントを施行した.その後も可及的に白色肉芽・不良肉芽の除去,デブリードメントを施行した.創部には緑膿菌感染を認めた.術後10週目では創部の感染兆候は改善されるも,創部右側に壊死部がみられるなど創傷治癒の更なる遅延が予想された.この頃より本症例から歩行練習の要望が強く,下肢筋力増強訓練や全身調整運動を中心とした理学療法プログラムに対する意欲低下を示した.従って,創部を免荷した仮義足の作製を検討し,術後11週目に創部免荷式の仮義足を作製した.義足を用いた訓練を行うにあたり,義足歩行は理学療法時のみ行い,連続歩行時間は20分間に設定した.尚,訓練後には必ず創部の管理・観察を行った.【倫理的配慮、説明と同意】症例に対し,本発表の目的と意義を口頭にて十分説明し同意を得た.【結果】義足歩行練習開始から2週目に創部右側に1cm長のポケットが形成されており,ポケット部のデブリードメントを施行した.義足歩行練習開始から4週目に創部に合わせてソケットの免荷部を広げ,ポケット部を免荷できるように修正した.義足歩行練習開始から5週目以降は創部が除々に改善した.そして義足歩行練習開始から11週目に強度のある創部免荷式ソケットに変更し,歩行に加え日常生活関連動作が全て自立した状態で自宅退院となった.その後は外来通院となり,創傷部はほぼ治癒した.【考察】一般的に血行障害に基づく切断例の場合は,早期負荷による創部の治癒遅延がみられ,早期の立位,歩行に耐えうる状態でないことが多い.したがって,血行障害例ではまず断端創部の治癒を最優先とすべきである.本症例に対しても,治療は創傷治癒を最優先としたが,入院期間の長期化と身体機能の維持,症例の運動が行えないことに対するストレスを踏まえ,創部免荷式義足を作成し歩行訓練を開始した.義足歩行訓練を実施する際は,義足装着時間の検討や歩行後の断端の管理を医師・看護師と共に徹底して実施したこと,創部の状態に合わせてソケットの修正を行ったことが創部の悪化を生じることなく行えた要因と考える.創傷治癒が完全でない患者に対する義足装着訓練は必ずしも安全であるとはいえないが,他職種で連携しフォローを行うことで,生じるリスクを最小限に抑え,患者のニーズに合った治療プランが実施できると考えられる.【理学療法学研究としての意義】本症例を通して,血行障害により創傷治癒遅延を認める患者に対して全身状態の管理と創部の血行動態を確保する工夫を検討することにより,創部を悪化させることなくより積極的なリハビリテーションを実施できる可能性がある.血行障害により創傷治癒遅延を認める患者に対するより安全で効果的なリハビリテーションの実現を確立していくことが重要であり,今後は症例数を増やし,多方面から検討する必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100612-48100612, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205571816576
  • NII論文ID
    130004585081
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100612.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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