胸腔鏡補助下手術(VATS)後の肺機能とpeak cough flowの変化について

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抄録

【はじめに、目的】胸部外科術後における急性期呼吸リハビリテーションの最大の目的は,術後の呼吸器合併症の予防であり,術後の無気肺・肺炎の予防には痰の喀出が重要である.痰の喀出に影響を与える咳嗽力の報告では,標準開胸術や,腹部外科術後における研究は散見されるが,胸腔鏡補助下手術(Video-Assisted Thoracic Surgery,以下VATS)後の肺機能,咳嗽時最大呼気流速(peak cough flow:以下PCF)の変化について検討したものは少ない.本研究の目的は,VATS後における肺機能,PCFを経時的に測定しその変化について検討することである.【方法】対象は平成23年11月から平成24年10月に当院呼吸器センター外科でVATSによる開胸術が施行され,周術期呼吸理学療法を実施した25名(男性14名,女性11名),平均年齢62.1±13.8歳,平均肺活量3264±717ml,平均1秒量2339±705ml,平均PCF 375±123L/minである.術前と術後1日目から5日目まで理学療法実施後に肺機能とPCFを測定し,2,4,8週目の外来時には肺機能,PCFを測定した.肺機能の測定にはスパイロメーター(CHEST社 HI-801)を用い測定した.PCFの測定には,フェイスマスクにアセスピークフローメーター(フジ・レスピロニクス社)を接続して測定した.PCFは3回測定しその最大値を採用した.さらに肺の切除量から計算される術後予測肺機能からみた,肺活量の回復率(術後肺機能/予測術後肺機能×100)を算出した.手術前後の肺機能・PCFの経時的変化における検討には一元配置分散分析及び多重比較を,また肺機能・PCFとの関係はPearsonの相関分析を用いた.いずれも危険率5%未満をもって有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は,当院の倫理委員会にて承認された.また対象者には本研究内容,目的,方法,研究参加に伴う利益・不利益等について十分に口頭,紙面を用いて説明し同意を得た.【結果】術後肺活量と予測術後肺活量への回復率は,術後1日目:1961±804ml(68.3±16.7%),3日目:2223±567ml(83.2±12.3%),5日目:2305±675ml(87.8±13.6%),2週目:2611±780ml(93.4±9.9%),4週目:2854±628ml(97.9±13.8%),8週目:2829±720ml(97.9±5.1%)であり,予測術後肺活量に対し術後5日目まで有意に低下が認められた(p<0.05).PCFの変化は1日目:218±93L/min,3日目:271±91L/min,5日目:291±87L/min,2週目:375±131L/min,4週目:353±113L/min,8週目:391±133L/minであった.術前に比べ術後3日目まで有意に低下が認められた(p<0.05).術後の肺機能とPCFを検討した結果,PCFと肺活量(r=0.754),1秒量(r=0.850)それぞれの間には強い正の相関が認められた(p<0.001).【考察】神経筋疾患を対象とした報告では,PCFが160L/minを下回ると日常的に痰の喀出が困難となり,270L/minを下回ると感染時には痰の喀出が困難になると報告されている.VATS術後3日目のPCFは270L/min程度であり,術後3日目までは咳嗽力の低下から,呼吸器合併症を生じる危険性があり,積極的な排痰介助を含む呼吸リハビリテーションが必要と考えられた.肺活量は術後5日目までは有意に低下していたが,術後4週程度で術後予測肺活量に概ね回復した.また肺活量とPCFには強い正の相関が認められており,術後早期においては深呼吸を促すような呼吸練習を実施し,肺の拡張,咳嗽力の改善を促していく必要があると考えられた.また退院後1ヶ月程度は,肺機能や全身持久力向上に運動療法の継続が望ましいと考えられた.【理学療法学研究としての意義】VATS後における肺機能,PCFを経時的に測定しその変化について検討した.臨床場面において術後急性期における肺機能・咳嗽力の指標の一助となると考えられる.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100625-48100625, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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