入院後麻痺が進行したレンズ核線状体動脈領域の Branch Atheromatous Disease (BAD) 症例の長期機能予後

DOI
  • 武内 剛士
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科
  • 藤井 明弘
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 神経内科
  • 堤 和也
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科
  • 谷 麻美
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科
  • 小澤 和義
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科
  • 石井 隆
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科
  • 山本 和明
    社会福祉法人 恩賜財団 済生会 滋賀県病院 リハビリテーション科

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抄録

【目的】 レンズ核線状体動脈(LSA)領域の穿通枝梗塞では、急性期に麻痺が急激進行する例が存在し、Branch Atheromatous Disease(BAD)と呼ばれる。BADは穿通枝入り口部のアテローム硬化性変化による狭窄や閉塞で穿通枝全体が梗塞に陥り、頭部MRI画像では梗塞巣が水平断で3スライス以上に及ぶのが特徴である。リハビリテーション領域ではLSA領域BADの具体的な機能予後、ADLについての報告は少ない。今回、入院後麻痺が進行したLSA領域のBAD、8症例の機能予後(最長6ヵ月)を画像的な考察も加え報告する。【方法】 対象は2010年10月~2012年3月までに当院入院後麻痺が進行したLSA領域のBAD、8症例とした。平均年齢は64.6±11.2歳、男性5名、女性3名、右片麻痺4名、左片麻痺4名。進行の基準は、入院後NIH stroke scale(NIHSS)が1点以上悪化した症例とした。評価方法として進行直後、進行後1ヶ月、3ヵ月、6ヵ月後の運動機能、ADLを、NIHSS、modified Rankin Scale(mRS)、Brunnstrom recovery stage(Brs)、Simple test for evaluation hand function(STEF)、Functional independence measure (FIM)を用いて評価した。また、画像検討として、進行後の梗塞前後径の中央が側脳室体部前後径の中央より前・後方どちらに位置するのか、また、側脳室体部を前後方向に三等分し、前方(A群)、中央(B群)、後方(C群)に分類し、梗塞がどの群に多く位置するか検討をおこなった。MRI拡散強調画像水平断における進行後の梗塞最大長径を計測し検討を行なった。【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会の承認を得て実施し、症例に対して研究内容を説明し同意を得た。【結果】 1)NIHSSは入院時1.75±1点、進行後5.6±2.4点と神経症状の悪化を認めた。2)進行後の上肢麻痺の程度は上肢Brs IIが4例、IIIが1例、IVが2例、Vが1例、手指Brs Iが3例、IIが4例、IIIが1例と特に手指の麻痺が重度に進行したが、1ヶ月後には上肢Brs IIが1例、IIIが1例、IVが2例、Vが2例、IVが2例、手指Brs Iが1例、IIが1例、IVが3例、Vが2例、VIが1例と上肢・手指ともに6症例は回復良好であった。回復不良の2例は、6ヶ月後においても上肢/手指Brs III /II、IV/IVまでの回復に留まった。進行後のSTEFは測定不可の例がほとんどであったが、3ヶ月後には4症例で基準点を獲得し、回復不良の2例は6ヶ月後も測定不可、数点レベルに留まった。3)進行後の下肢麻痺の程度はBrs IIIが2例、IVが5例、Vが1例であったが、1ヶ月後には、IVが2例、Vが5例、VIが1例で下肢Brsは比較的早期回復する例が多かった。FIMにおいても麻痺の進行後80.3±10.3点、1ヶ月後には115.6±7.4点と回復し、6例は実用歩行獲得が可能であった。実用歩行不可能であった2例も3ヶ月後には実用歩行が可能であった。mRSにおいても7症例で3ヶ月後には2まで改善し、残り1例も3まで回復した。4 )進行後の梗塞部位は全例、傍側脳室中央部より後方に位置し、進行後の梗塞の分類はA群0例、B群7例、C群1例であった。梗塞の大きさについては進行前9.95±3.7 mm(6.1~16.5 mm)、進行後で16.9±6.3 mm(9.8~28.9 mm)と拡大した。【考察】 山本らはLSA領域のBADでは傍側脳室中央部より後方に梗塞を認める例は進行の経過を辿る例が多く重症化しやすいと報告している。このように後方タイプのほうが重症化しやすいのは、LSA梗塞の場合、後方にある方が錐体路とより接するからではないかと推測されている。今回の8症例においても進行後の梗塞部位はすべて傍側脳室中央部より後方に位置し、重度に麻痺が進行した。しかし、歩行においては1ヶ月後には実用歩行可能であった例が6例みられ、残り2例も3ヶ月後には実用歩行に達した。FIMにおいても1ヶ月後には優位に回復したことから、機能予後的には歩行、ADLにおいては比較的早期に改善が見込める可能性が示唆された。また、石井らによれば傍側脳室体部放線冠梗塞では上肢優位型の麻痺が出やすく、B群ではA群、C群に比較して強い麻痺を残す頻度が高い傾向があると報告されている。今回の8症例においても麻痺の進行後は上肢・手指の麻痺が重度に進行する結果となったが、長期的には6症例で実用手レベルまでの回復が可能であった。実用手レベルに達しなかった2例は、その他の例と比較して梗塞最大長径で20mm以上と大きく拡大していた。BADにおいては、B群では麻痺の進行後は上肢に重度の麻痺が出るが、多くの例で長期的には実用手レベルまで回復可能であるが、梗塞最大長径が大きければ(20mm以上)穿通枝レベルの梗塞であっても、上肢機能については6ヵ月後においても重度に麻痺を残すことが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】 LSA領域のBADにおいて、画像的所見を検討し、梗塞のサイズ、位置に着目し、長期的な機能予後、ADLの経過を追うことで、早期に機能予後、ADLを予測できる可能性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100652-48100652, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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