理学療法士および一般成人による咳嗽介助効果の比較

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • 神経難病患者家族への呼吸ケア指導にむけて(第一報)

抄録

【はじめに、目的】神経難病患者の呼吸ケアの一環として咳嗽介助があるが、在宅療養などを考えると、理学療法士(以下PT)による咳嗽介助だけでなく、家族などの身近な介助者も施行できることが望ましい。介助者に咳嗽介助の指導を行う場合、PTと比較してどの程度有効に咳嗽を介助できるか、どのような相違があるのかを把握しておくことは有用である。本研究では、一般成人および咳嗽介助未経験のPTに対して咳嗽介助指導を実施後、健常者を対象に咳嗽介助を行い、最大呼気流速の測定と被咳嗽介助者へのアンケート調査を実施し、患者家族への咳嗽介助指導に対する知見を得ることを目的とした。【方法】咳嗽介助未経験の健常者7名(事務職員等、27.1±1.3歳;非PT群)とPT7名(28.4±5.4歳;PT群)に対して咳嗽指導を行った。咳嗽介助方法は先行研究で効果があったとされる腹帯を巻き胸郭を介助する方法を採用し、呼吸療法認定士をもつ理学療法士(1名)が10~15分程度の実技指導を行った。咳嗽介助方法指導後、健常な被咳嗽介助者2名(I:24歳、Ⅱ:24歳)に対して咳嗽介助を行い、咳嗽介助前と咳介助時の最大呼気流速(以下PCF)を比較した。咳嗽介助の姿勢は背臥位とした。PCFの測定にはPeak Flow Meter(米国レスピロニクス社製ASSESS Full Range型)を使用し、(1)介助なし、(2)腹帯着用、(3)徒手による胸郭圧迫+腹帯着用の順で、各々で3回した。最大値を代表値として、PT群と非PT群間でt検定を用いて比較検討した。被咳嗽介助者2名について、咳嗽介助時の胸郭圧迫に対する心地よさを5件法(1:不快である・2:やや不快・3:どちらでもない・4:やや心地よい・5:心地よい)でアンケート調査した。胸部圧迫に対する心地よさは、Mann-WhitneyのU検定を用いて群間比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】対象者および術者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。また本研究は狭山神経内科病院倫理委員会の了承を得ている。【結果】被咳嗽介助者1のPCFおいては、PT群と非PT群の全体で介助なし(524±74 L/min)から腹帯着用(520±85 L/min)との間には有意差を認めなかったが、徒手的胸郭圧迫+腹帯着用(595±76 L/min)と介助なし、および徒手的胸郭圧迫+腹帯着用と腹帯着用との間に有意差を認めた。PT群の徒手的胸郭圧迫+腹帯着用のPCFは570±100 L/min(対介助なし群との比1.12±0.16倍)、非PT群は621±28 L/min(1.18±0.16倍)であり、平均値ではPT群の方が低いが有意差は認めなかった。被咳嗽介助者Ⅱにおいても、PT群と非PT群全体で介助なし(676±59 L/min)と腹帯着用(672.1±114.4 L/min)の間には有意差を認めなかったが、徒手的胸郭圧迫+腹帯着用(757±91 L/min)と介助なし、および徒手的胸郭圧迫+腹帯着用と腹帯着用との間に有意差を認めた。PT群の徒手的胸郭圧迫と腹帯着用のPCFは776±94 L/min(1.14±0.05倍)、非PT群は739±90 L/min(1.10±0.14倍)であり、PT群の方が高いが有意差は認めなかった。しかし心地よさではPT群4.0±0.8、非PT群2.6±1.3となり有意な差を認めた。【考察】被咳嗽介助者2名ともに、各条件におけるPCFは同様の傾向を示していた。腹帯のみの場合にPCFに変化がなかった理由としては、健常者では腹圧を補う必要がないことや、腹帯による腹部圧迫に起因する吸気量の減少が考えられる。徒手的胸郭圧迫によりPCFが増加したことは、咳嗽介助の施行経験がなくても10~15分程度の指導により、PCFを増加させる手技が修得でき得ることを示唆する。さらに、PT群と非PT群で咳嗽介助時のPCFに有意差がないことは、患者家族のような一般人であっても、指導によってPTと同程度の咳嗽介助が可能なことを示唆する。しかし、PT群と非PT群ではPT群の方が有意に心地よいという結果であり、知識と経験による技術の差によるものと考えられる。胸郭圧迫による不快感は、患者の治療手技への受け入れだけでなく、圧迫時の肋骨骨折などのリスクにもつながる可能性がある。患者家族に咳嗽介助を指導する際は、これらの点にも注意して適切な指導を実施する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究結果から咳嗽介助を施行した経験のない一般人でも、咳嗽介助を指導することで咳嗽力の指標であるPCFを増加させることができることが確認できた。このことは適切な指導が実施できれば患者家族による咳嗽介助が可能になり、よりよい在宅療養につながることを示唆している。また、本研究結果から、咳嗽介助法の指導にはPCFの増加以外の考慮すべき要素もあることが分かり、咳嗽介助法の指導の改善の一助となると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100770-48100770, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680548850432
  • NII論文ID
    130004585202
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100770.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ