臨床実習から受けるストレスに関する基礎調査

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抄録

【はじめに、目的】 本研究の目的は、理学療法専攻の大学生が臨床実習から受けるストレスに関する基礎データを得ることである。ストレス負荷の状態を知る方法として、今までは質問紙を使用した計測方法が主であった。しかし、近年ストレスは生理学的、生化学的側面から評価されることが望まれている。本研究では、質問紙をState-Trait Anxiety Inventory (STAI)、Profile of Mood States(POMS)として、心拍変動(Heart Rate Variability: HRV)、唾液アミラーゼ活性(Salivary Amylase Activity: SAA)を加えた4項目によりストレスを評価し、それらの関連性を調査した。【方法】 対象はA大学理学療法専攻の大学生17名(男性10名、女性7名、平均年齢20歳)、3週間の評価実習をストレッサーとした。 HRVは室温26度、湿度53%の騒音のない薄暗い部屋で、5分間の安静背臥位を保持した後に5分間測定した。測定にはYKC株式会社の加速度脈波測定器パルスアナライザープラスTAS9(サンプリング周波数1kHz)を使用した。この機器により、R-R間隔時系列データを周波数解析して高周波成分(HF,0.15-0.4Hz)、低周波成分(LF,0.04-0.15Hz)に分解し、成分比(LF/HF)及び対数変換により正規化されたLn(LF)、Ln(HF)、Ln(LF/HF)が算出された。SAA測定は、ニプロ株式会社の酵素分析装置「唾液アミラーゼモニター」を使用した。測定1時間前を絶飲食とし、安静座位にて唾液摂取紙を舌下に挿入し約1分間唾液を染み込ませた。同時にSTAI、POMSによる心理的評価を実施した。 測定は実習1週間前に実施し、男女間の比較を行った。なお質問紙は実習1ヶ月前をベースラインとして比較した。統計処理には SPSS Ver.19を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 九州看護福祉大学倫理委員会の承諾を得た(承認番号23-028)。対象者に対して研究内容、目的について書面と口頭にて説明し同意を得た。【結果】 HRVは、男性Ln(LF) 6.11±0.99、Ln(HF) 5.69±0.98、Ln(LF/HF) 1.08±0.08、女性Ln(LF) 4.85±1.06、Ln(HF) 5.31±0.98、Ln(LF/HF) 0.91±0.16であった。Ln(LF)、Ln(LF/HF)では、男性が有意に高い値を示した。 SAA(kU/L)は、男性38.4±28.1、女性24.0±11.1であった。男女間に有意差は認めなかった。 STAI(状態不安)は 47.4±12.2、男性45.9±12.8、女性49.4±11.7、POMS(T-A: 緊張-不安)は16.2±8.2、男性15.2±7.3、女性17.5±9.7であった。ベースライン値はSTAI(状態不安) 41.1±6.7、POMS(T-A)11.2±4.9であった。実習1週間前はベースライン時に比べて有意に高い値を示した。男女間に有意差は認めなかった。【考察】 質問紙の結果から、ベースラインに比べて実習1週間前は、心理的に緊張状態にあることが示唆された。また、男女間での有意差は認めなかったが、実習1週間前の平均値では女性が高い値を示した。実習前の生理学的な指標としてHRVを測定した。LF成分は交感神経及び副交感神経活動、HF成分は副交感神経活動を反映すると考えられており、LF/HFは交感神経系の指標とすることが多い。今回のLn(LF)、Ln(LF/HF)の男女比較から、女性に比べて男性は実習前に交感神経系の活動が亢進していることが示唆された。また生化学的な指標としてSAAを測定した。SAAのストレス応答系との関連については、HRVの周波数解析における交感神経の亢進などとの相関が報告されており、特に交感神経-副腎髄質系の活動に依存していると考えられている(廣瀬ら,2009)。しかし、今回の結果ではHRVとの相関は認めなかった。また男女間では有意差を認めなかったが、平均値では男性が高い値を示した。 本研究の結果から、実習1ヶ月前に比べ1週間前には心理的なストレスを受けていることが示唆された。また女性は心理学的に緊張や不安の状態を示しやすい傾向にあることが推測された。しかし、生理学的、生化学的な指標では男性が高い値を示しており、心理状態とは逆の傾向を示す結果となった。【理学療法学研究としての意義】 多面的な指標を用いることにより詳細なストレス解析が可能となる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100889-48100889, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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