継続的な低強度運動が2 型糖尿病における骨格筋のPGC-1 α発現と筋線維タイプ組成に及ぼす影響

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抄録

【はじめに、目的】糖尿病の骨格筋における微小血管障害には,骨格筋線維のミトコンドリア機能障害が関与することが報告されている.また,先行研究で継続的な低強度運動は糖尿病に伴う骨格筋のミトコンドリア機能障害を軽減し,微小血管障害並びに2 型糖尿病の発症を予防することを確認した.しかし,継続的な低強度運動がどのような作用機序でミトコンドリア機能障害と微小血管障害を軽減したのかは解決されていない.2 型糖尿病における骨格筋のミトコンドリア機能障害を引き起こす要因として,ミトコンドリア新生の転写補助因子であるPGC-1 αの発現量の減少が指摘されている.また,2 型糖尿病ヒラメ筋ではミトコンドリア代謝機能の高いタイプ2A線維比率が減少することも知られている.しかし,継続的な低強度の運動が2 型糖尿病におけるPGC-1 αの発現と筋線維タイプ組成に及ぼす影響は未解明のままである.本研究では,PGC-1 αと筋線維タイプ組成に着目し,継続的な低強度運動が2 型糖尿病における骨格筋のミトコンドリア機能障害と微小血管障害に対する予防効果を検証した.【方法】自然発症2 型糖尿病モデル動物として11 週齢の雄性Spontaneously Diabetic Toriiラットを使用し,非運動群(DB)と持久運動群(DBEx)に区分した.また,同一週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを用い,非運動群(Con)と持久運動群(Ex)を設定した.Ex群とDBEx群には低強度トレッドミル走行(血中乳酸値 〜2mg/dl)を週5 回の頻度で14 週間継続して行った.2 週毎に尾静脈から採血を行い血糖値の測定を行った.尚,4 群間の給餌量は均等に調整した.運動開始14 週後,深麻酔下で採血し,HbA1cと血糖値を測定した.また,採血後に足底筋を摘出し,凍結保存した.足底筋におけるVEGF,PGC-1 αの発現量はウェスタンブロッティング法により測定した.また,ATP染色(pH4.5)所見を用いて筋線維タイプ比率を算出した.得られた測定値は一元配置分散分析,及びpost-hocテストとしてTukey法を使用し,有意水準を5%として統計処理を行った.【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した.【結果】DB群の空腹時血糖値とHbA1cはCon群に比べて有意に高値を示したが,DBEx群はDB群に比べて有意に低値を示し,低強度運動は2 型糖尿病の発症を予防した.また,DB群における筋線維のコハク酸脱水素酵素活性,筋線維あたりの毛細血管数,血管新生因子であるVEGFの発現量はCon群に比べて有意に低値を示したが,DBEx群ではこれら全てがDB群に比べて有意に高値を示し,足底筋のPGC-1 αの発現量に関して,DB群はCon群と比較して有意に低値を示した.一方,DBEx群はDB群と比べて有意に高値を示し,Con群との間には有意差を認めなかった.さらに足底筋深層におけるタイプ2A線維比率がDBEx群ではDB群と比較して有意に高値を示した.【考察】2 型糖尿病における骨格筋のミトコンドリア機能にはPGC-1 α発現が関与していることが知られている.糖尿病群であるDB群では,PGC-1 α発現の減少が観察されたが,継続的な低強度運動は糖尿病に伴うPGC-1 α発現の減少を予防した.PGC-1 αがミトコンドリアの新生や活性化の因子として働くことで,糖尿病によるミトコンドリア機能が温存され,微小血管障害の予防にもつながったことが示唆される.運動による骨格筋のエネルギー欠乏状態はAMPキナーゼを活性化し,細胞内カルシウム濃度を上昇させることでPGC-1 αを誘導するとされており,本研究の低強度運動においても同様の機序が働いたものと考えられる.また,PGC-1 αにより誘導されたミトコンドリア代謝の活性化は遅筋線維の比率を増加させることが報告されている.本研究においても,PGC-1 α発現はミトコンドリア含有量が多く代謝活性の高いタイプ2A線維の割合を増加させた.このため骨格筋の酸素需要が高まり,VEGFが誘導されることで糖尿病に伴う微小血管障害が予防されたものと考えられる.これらの結果により継続的な低強度運動が2 型糖尿病におけるミトコンドリア機能と微小血管障害を軽減するには,骨格筋におけるPGC-1 α発現の減少を減衰させることや酸化的リン酸化活性が高いとされる筋線維タイプ比率を増加させることが重要であることが示された.【理学療法学研究としての意義】糖尿病患者に対する運動療法は血糖の上昇を抑えると共に糖尿病性微小血管障害の予防に効果があることを示した.また,運動は筋の酸化的リン酸化活性を増加させ,PGC-1 α発現が関与しているという作用機序を示せたことに意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48100926-48100926, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282680547683328
  • NII論文ID
    130004585308
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48100926.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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