学生における股関節可動域測定の検者間信頼性の検討

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抄録

【はじめに、目的】近年、根拠に基づく医療(EBM)や根拠に基づいた理学療法(EBPT)を目指し、理学療法効果を判定する為に信頼性の検証された指標を用いる必要がある。これを達成する為には、一つ一つの理学療法評価を検者が的確に実施できる必要があり理学療法士養成課程における学生においても同様なことがいえる。実習場面において適切な理学療法評価を正確に実施出来るか否かは実習進行に大きく関わる。よって学生の理学療法評価のスキル向上は非常に大切である。そこで本研究は、理学療法士養成過程における学生(これから評価実習を迎える学生)を対象とし、股関節可動域測定(以下ROM測定)の検者間信頼性を検証したので報告する。【方法】運動器疾患のない健常者5名(男性1名、女性4名、平均年齢20.2歳、すべて右利き)を対象にした。検者は本校理学療法学科二年生10名(男性7名、女性3名、平均年齢22.1歳、すべて右利き)に全対象者の右股関節ROM測定を全方向実施させ、検者間信頼性を検討した。検者は本校のカリキュラムにある理学療法評価技術論を履習済みである者とし、成績は優、良、可の者を偏りなく抽出した。ROM測定方法は日本リハビリテーション医学会評価基準委員会、日本整形外科学会身体障害委員会の「関節可動域表示ならびに検査法」に従い、物品は同一のゴニオメーターを使用している。検者は一人の対象者に対し股関節全方向を他動にて1回測定させ、これを5名実施した。また検者間の情報交換を行わないように配慮した。測定順番はランダムに行い、対象者は測定結果を反映しないよう、全ての測定結果を伏せ、全て同条件(環境、服装、時間帯)に設定した。対象の疲労に配慮し十分な休息をとらせた。統計処理は検者間信頼性係数ICC(2.1)を用いて級内相関係数をSPSS(ver.16.0)にて検出した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】学内承認のもと、対象者には本研究の目的、方法、プライバシー保護等について説明を行い、本研究の参加については本人の自由意思による同意を書面にて得た。【結果】ICC(2.1)にて測定方向別に級内相関係数を算出した。級内相関係数は屈曲:0.95、伸展:0.84、外転:0.49、内転:0.56、外旋:-0.07、内旋:0.79であった。屈曲・伸展は検者間信頼性が高く、内転・内旋において検者間信頼性は低かった。外旋・外転では有意水準を満たさなかった。【考察】本研究結果を桑原の判断基準により分類すると屈曲:great、伸展:good、内旋:fair、外転・内転・外旋:re-workとなる。この結果を運動面として比較すると、矢状面の運動は高い信頼性が得られたのに対し、前額面の運動は低い信頼性となった。股関節の運動は骨盤帯と腰椎の動きと密に関連している。矢状面は骨盤帯の前後傾や腰椎の屈伸運動、前額面では骨盤帯の側方傾斜や腰椎の側屈運動がおこりやすい。学生は矢状面上の運動は骨盤帯や腰椎の動きを把握することが出来たが、前額面上の運動は骨盤帯や腰椎の動きを確認することが困難であったと考えた。本研究において外転と外旋は験者間信頼性の有意水準を満たさなかった。外転ROMにおいて、学生は被検者の骨盤帯を把持しながら下肢を動かさなければならない。この結果、学生は骨盤帯への注意が低下し代償運動が生じたと考える。次に外旋ROMにおいては、測定方法が背臥位、股関節・膝関節屈曲90°にて実施する。これを経験が浅い学生が行うと、上記の肢位を保てず不良肢位にて計測する傾向にあることや、股関節屈曲・内転・外旋の組み合わせは股関節の不安定をきたしやすいことから、学生は適切なend feelを捉えることが出来なかったと考える。嶋田らは、股関節回旋ROMは肢位の変化にて角度誤差が生じると報告している。以上を外転・外旋ROM測定にて検者間信頼性の有意水準を満たさなかった要因とした。股関節は自由度が高くend feelは全て結合組織によるものである。従って股関節ROM測定時は各運動方向に応じた運動面にて実施し、代償運動やend feelを正確に捉えなければ角度誤差が生じ、検者間信頼性が低くなることが本研究にて示唆された。よって本研究結果を踏まえ実技指導にあたる必要性がある。ROM測定は検者内信頼性が高いことが重要とされている。今後、これらも含め検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】信頼性の高い理学療法評価の獲得が学生にとって非常に大切と考える。これらを習得し実習に臨むことで、患者様に正確な評価、治療選択が行える。本研究を今後の学内教育に繋げ質の高い技術科目指導を行っていきたい。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101042-48101042, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390282680551352192
  • NII論文ID
    130004585389
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101042.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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