安定期慢性閉塞性肺疾患患者の最大歩行速度と呼吸機能や気腫化の程度は関連するか

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抄録

【はじめに,目的】最大歩行速度(Maximum Walking Speed:MWS)は歩行能力の簡便な評価指標として多く用いられており,下肢筋力やバランス機能の影響を受けることが知られている.また,MWSは日常生活活動(Activity of Daily Living:ADL)能力と関連しており,歩行速度の低下した高齢者では将来的に閉じこもり傾向になりやすいとされている.さらに,地域在住高齢者を対象とした先行研究では,MWSが心血管疾患死亡率と関連することが報告されており,生命予後に影響を与える因子としても注目されている.一方,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)患者の多くは運動機能の低下した高齢者であることに加えて,全身性炎症による骨格筋機能異常が生じていることから,MWSの規定因子である下肢筋力が同年代の健常者と比べて低下している.また,COPD患者の転倒発生率は一年間当たりに平均1.2回と報告されており,その多くは歩行中の転倒であることから,転倒による骨折予防の観点からも歩行能力の指標であるMWSを評価する必要がある.しかし,COPD患者のMWSに関する報告は少なく,COPDに特有の病態がMWSに影響するかは明らかではない.本研究では,COPDの病態を反映する呼吸機能やCTにて評価した気腫化の程度に着目して,安定期COPD患者におけるMWSの関連因子を検討することを目的とした.【方法】対象は,当院にて教育入院を行った安定期COPD患者16例(78.5±7.9歳,男性14例)とし,歩行に支障をきたす中枢神経疾患や整形外科疾患を有する者は除外した.評価項目は,背景因子[年齢,性別,Body Mass Index(BMI)],呼吸機能[肺活量(%VC),一秒量(%FEV1),呼気筋力(%MEP),吸気筋力(%MIP),残気率(RV/TLC),肺拡散能(%DLco/VA)],気腫化の程度[low attenuation area(LAA)score],MWS,等尺性膝伸展筋力,バランス機能(片脚立位時間,Functional Reach)とした.MWSの評価には,15mの歩行路のスタート地点から5m地点までを助走距離として,5m地点から15m地点までの10m間をできるだけ速く歩くように指示した際に要した時間を用いた.気腫化の程度の評価には,CT画像所見から,肺野の中で低吸収領域(LAA)が占める割合をGoddardらの方法に基づいて点数化したLAA scoreを用いた.また,LAA scoreが8未満の者は軽症,8以上16未満は中等症,16以上は重症として,気腫化の重症度を分類した.なお,LAA scoreの算出は,放射線技師がCT撮影を行った上で,呼吸器内科医が行った.統計学的解析は,MWSと各評価項目との関連の検討にSpearmanの順位相関係数を用いた.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,被験者に測定の目的と方法を十分に説明し,同意を得た上で実施した.【結果】本研究の対象者におけるMWSの平均値は93.6m/minであり,LAA scoreから分類した気腫化の重症度は軽症が2例,中等症3例,重症11例であった.また,MWSは等尺性膝伸展筋力と片脚立位時間および%MEPとの間に有意な相関を認めたが(それぞれP<0.05,r=0.59,0.64,0.56),%VC,%FEV1,%MIP,RV/TLC,%DLco/VAとは相関を認めなかった.一方で,MWSとLAA scoreとの間に有意な相関は認められなかったものの,両者間に一定の傾向が認められた(P=0.08,r=-0.45).【考察】COPD患者のMWSは先行研究における健常者の98.6m/minに比べて低下していると考えられた.また,COPD患者のMWSには,健常者を対象とした先行報告と同様に下肢筋力とバランス機能が関連していることが確認された.近年,COPD患者では下肢筋力の低下に起因したバランス機能の低下が指摘されていることからも,歩行能力の改善を目的とした介入を行う上では,バランス機能を評価する必要性が示された.さらに,呼気筋力は骨格筋力の代表値として扱われる握力との相関関係が報告されていることから,本研究で認められた%MEPとMWSとの関連についても,%MEPが全身性の骨格筋力低下を反映した結果であると考えられた.一方で,MWSは%FEV1とは相関を認めなかったものの,LAA scoreとは一定の傾向を認めた.先行研究において,気腫化の程度と骨格筋量は,全身性の炎症を介して,関連していると報告されていることから,COPDにおける下肢筋力ならびに歩行能力の低下には全身性炎症が関与しているものと推察された.また,%FEV1は気腫病変だけでなく気道病変による気道閉塞の影響も受けるために,今回の症例群では%FEV1とLAA scoreとで結果が乖離したものと考えられた.【理学療法学研究としての意義】COPD患者では,下肢筋力やバランス機能に対する理学療法介入を行うことで,歩行能力が改善する可能性が示された.また,とくに気腫化が進行した患者では,歩行能力に関する評価と介入が必要であると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101057-48101057, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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