ギプス固定下でも磁気刺激によって周期的な筋収縮を誘発すると筋性拘縮の発生が軽減する

DOI
  • 原槙 希世子
    社会医療法人 長崎記念病院 リハビリテーション部
  • 岡村 千紘
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座 理学療法学分野
  • 本田 祐一郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座  運動障害リハビリテーション学分野 博士課程
  • 坂本 淳哉
    長崎大学病院 リハビリテーション部
  • 中野 治郎
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 保健学専攻 理学・作業療法学講座 理学療法学分野
  • 沖田 実
    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻 リハビリテーション科学講座  運動障害リハビリテーション学分野

Abstract

【はじめに、目的】医療分野で利用されている磁気刺激装置とは,主に電磁石によって生み出される急激な磁場の変化によって弱い電流を組織内に誘起させることで,神経細胞を興奮させる非侵襲的な方法であり,脳血管疾患に対する経頭蓋磁気刺激治療はよく知られている.一方,ギプス固定などによって骨格筋が不動状態に曝されるとしばしば筋性拘縮が発生するが,所属研究室の先行研究によれば,このメカニズムには骨格筋における低酸素状態の惹起や強力な線維化促進作用のあるTransforming growth factor(TGF)-β1 とよばれるサイトカインの発現が関与すると考えられており,これは骨格筋の不動によって筋の長さ変化が生じず,張力負荷が減少することが一因とされている.よって,ギプス固定下であっても何らかの手段で筋収縮を誘発し,張力負荷を高めることができれば筋性拘縮の発生が軽減できる可能性があり,上記の原理に基づけば磁気刺激装置はその手段として利用できると思われる.よって,本研究ではギプス固定によって不動状態に曝されているラットヒラメ筋に対して,磁気刺激を用いて周期的な筋収縮を誘発することで筋性拘縮の発生が軽減できるかを検証した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット16 匹を用い,これらを4 週間通常飼育する対照群(n=5),両側足関節を最大底屈位で4 週間ギプス固定する不動群(n=5),4 週間のギプス固定期間中に脊髄を磁気刺激することでヒラメ筋の周期的な筋収縮を誘発する刺激群(n=6)に振り分けた.そして,4 週間の実験期間終了後に麻酔下で体重と両側足関節の背屈可動域(ROM)を測定し,その後,両側ヒラメ筋を採取した.採取したヒラメ筋は直ちに筋湿重量を測定し,右側筋試料についてはその凍結横断切片に対してHematoxilin & Eosin染色ならびにPicrosirius red染色を施し,組織病理学的検索に供するとともに,筋線維横断面積の計測を行った.一方,左側筋試料についてはRT-PCR法にてタイプI・IIIコラーゲン,筋線維芽細胞のマーカであるα-smooth muscle actin(α-SMA),TGF-β1,特異的低酸素転写因子であるHypoxia inducible factor-1 α(HIF-1 α)といった線維化の標的分子ならびに内因性コントロールであるGAPDHそれぞれのmRNA 発現量を検索した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は長崎大学動物実験指針に準じ,長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】ROMは不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に低値であったが,刺激群は不動群より有意に高値を示した.一方,筋湿重量を体重で除した相対重量比ならびに筋線維横断面積は不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に低値で,この2 群間に有意差を認めなかった.そして,組織病理学的にはすべての群で筋線維壊死などの炎症を疑わせる所見は認められなかったが,不動群と刺激群は対照群に比べ筋周膜や筋内膜に肥厚が認められ,その程度は刺激群が不動群より軽度であった.次に,線維化の標的分子のmRNA発現量をみると,タイプIコラーゲンとα-SMAについては,不動群,刺激群ともに対照群に比べ有意に高値であったが,刺激群は不動群より有意に低値を示した.また,タイプIIIコラーゲンとHIF-1 αについては,不動群が対照群,刺激群より有意に高値であり,対照群と刺激群の間に有意差を認めなかった.一方,TGF-β1 については不動群は対照群に比べ有意に高値を示したが,刺激群は対照群,不動群のどちらとも有意差を認めなかった.【考察】今回の結果から,ギプス固定下でも磁気刺激によって周期的な筋収縮を誘発すると,骨格筋の低酸素状態が緩和され,併せて線維芽細胞から筋線維芽細胞への分化が抑制され,コラーゲン産生の減少,すなわち線維化の発生が軽減することが明らかとなった.加えて,ROM制限の発生も軽減していることから磁気刺激は筋性拘縮の発生を抑制する効果があると推察され,新たな治療手段となり得る可能性が示された.しかし,TGF-β1 の発現に対しては明らかな効果を認めず,これは磁気刺激の頻度や時間などが影響していると思われ,今後の課題としたい.【理学療法学研究としての意義】通常,ギプス固定されるとその当該筋に対しては治療介入が難しく,筋性拘縮の発生を許してしまうことが多いが,磁気刺激を用いることでその軽減を促すことが可能であることを本研究によって明らかにした.つまり,本研究の成果は筋性拘縮に対する新たな治療手段開発の糸口を提示した理学療法の基礎研究として意義深いと考える.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205576698240
  • NII Article ID
    130004585569
  • DOI
    10.14900/cjpt.2012.0.48101298.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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