ノルディックウォーキングが骨盤動揺と骨盤周囲筋活動に与える影響

この論文にアクセスする

著者

抄録

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者(以下,変股症)は中殿筋の弱化に伴い,骨盤の傾斜と伴に特徴的な跛行を呈する.中殿筋の弱化を大腿筋膜張筋が代償することで生じる収縮リズムの破綻も問題となる.我々は第47回本学術大会で二本のポールを使用するノルディックウォーキング(以下,NW)が変股症の体幹動揺を減少させることを報告した.このことから,NWは体幹の動揺を軽減させ,正常に近い歩行を学習する為の有効な運動手段となることが考えられた.しかし,変股症は股関節に器質的な変化を生じており,NWは体幹のみでなく骨盤の傾斜も減少させ,周囲の筋活動に対しても影響を与えることが考えられる.しかし,NWが骨盤周囲の活動に与える影響は明らかになっていない.また,NWには日本式(以下,JS),ヨーロッパ式(以下,ES)という歩行様式があり,ポールの使用方法が異なることから,各歩行様式においても骨盤の動き,筋活動に影響を与えることが考えられる.そこで今回は,健常成人にJS,ES,通常歩行(以下,OW)を実施し,骨盤動揺,骨盤周囲の筋活動,歩幅に与える影響を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象者は,健常成人8名(21.4±1歳)とした.使用機器は筋電図計測装置一式,荷重量測定器内臓ポール,メトロノーム,三軸ジャイロセンサー,フットセンサーとし,全対象者にOW,JS,ESを各二回ずつ実施した.測定前に全日本ノルディックウォーク連盟が推奨しているJS,ESという方法に準じて指導を行ったのち,実施した.課題動作は,荷重量測定器内臓ポールを用いてポールに加わる荷重量を自重の10%となるように設定し,メトロノームを用いて歩調を112step/minに統一した.筋電図計測装置と三軸ジャイロセンサーを手動で同期し,サンプリング周波数を1KHzに統一した.右踵骨部に貼付したフットセンサーの信号から歩行周期を同定し,各課題動作における連続する二歩行周期を解析区間とした. 骨盤動揺の指標として,前後傾角度,回旋角度,傾斜角度を計測し,骨盤周囲の筋活動(腹直筋,腰部脊柱起立筋,大腿直筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋),歩幅を算出した.骨盤の動きは,両PSISを結んだ中点に三軸ジャイロセンサーを貼付し計測した.今回は骨盤動揺の振れ幅として,解析区間内の最大角度変化の絶対値の和を算出した.筋活動は高域通過フィルターを20Hzで処し,全波整流した.各筋のMVCから,1歩行周期中の%IEMGを算出した.歩幅は歩行距離を歩数で除し,一歩幅を算出した.JS,ES,OWにおける筋活動,骨盤動揺,歩幅に関して統計学的に検討した.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は新潟医療福祉大学倫理委員会の承認を得た上で行われた.全対象者には,口頭と書面にて本研究の趣旨を説明し,署名にて同意を得た.【結果】 筋活動に関して,腹直筋がESで6.25±3.54%,OWで2.06±1.59%となりESで有意に高く,大腿筋膜張筋がOWで8.62±4.96%,JSで6.73±4.33となりOWで有意に高い値となった(p<0.05).骨盤動揺に関して,傾斜角度はJSで10.38±2.31°,ESで11.11±3.06°,OWで12.29±2.59°となり,JS,ESよりもOWで有意に高い値となった(p<0.05).歩幅に関してJSで52.4±6.85cm,ESで56.16±6.46cm,OWで52.56±4.78cmとなり,JS,OWよりもESで有意に高い値となった(p<0.05).【考察】 今回三軸ジャイロセンサーを使用し,JS,ES,OWで骨盤の前後傾角度,回旋角度,傾斜角度,筋活動,歩幅を算出した.その結果,傾斜角度がJS,ESでOWよりも有意に減少し,NWは体幹の側屈角度と同様に骨盤傾斜角度の減少が生じることが明らかとなった.また,杖の様にポールを使用するJSはOWと比較し,大腿筋膜張筋の活動が有意に低くなった.中殿筋の活動に有意差はなく,JSは大腿筋膜張筋の活動を選択的に減少させる歩行様式であることが示唆された.股関節の器質的変化に伴い,中殿筋の弱化が生じる変股症は,大腿筋膜張筋で活動を代償するとされており,変股症患者は長期間の逃避性の跛行が運動学習されることで,筋力の回復のみでは跛行の改善がしにくいことが報告されている.これらのことから,JSは大腿筋膜張筋の活動のみを減少させ,骨盤傾斜を軽減し歩行を行うことができる可能性が示唆され,変股症患者にとって正常な歩行を再学習する際の,有効な運動療法の一つになる可能性が示唆された.しかし,本研究の限界として健常者のデータであり,実際に変股症患者に同様の効果が生じるかは明らかではない.今後は,変股症を対象にしたデータ計測を行い,より詳細な効果を検討していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,NWは骨盤の傾斜角度を軽減させる効果があり,特にJSは大腿筋膜張筋の活動を選択的に軽減させる歩行様式であることが示唆された.変股症患者に有効な運動手段の一つとなる可能性が示唆されたことから,意義のある研究であると考える.

収録刊行物

  • 日本理学療法学術大会

    日本理学療法学術大会 2012(0), 48101361-48101361, 2013

    JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION

各種コード

ページトップへ