急性心筋梗塞後に心室重複破裂を呈し心タンポナーデに陥った症例に対するリハビリテーションの経験

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抄録

【はじめに】心室中隔穿孔(VSP)と左室自由壁破裂(LVFWR)は,ともに急性心筋梗塞(AMI)の重篤な合併症であり,迅速な外科的治療が必要である。この両者が併発する心室重複破裂(LVDR)はまれであり,救命率の低い症例である。心破裂は,心原性ショックや低心機能に陥りやすく,その後の心臓リハビリテーション(心リハ)を困難にする要因とされている。しかし,LVDRに対し術後より心リハを行ない,その経過を報告したものは少ない。今回,我々はAMI後にVSP,LVFWRを呈し心タンポナーデに陥った症例に対して,術後より医師,看護師,コメディカルが連携し早期より心リハを実施し,自宅退院に至った症例を経験したので考察を踏まえて報告する。【方法】症例は80歳代の男性である。9月18日に心窩部痛出現し救急搬送となった。入院時,血圧は140/84mmHg,心拍数は90bpm,心電図所見は洞調律,V1-6がQSパターン,V2-6がST上昇,血液所見はCPK5241IU/L,LDH1288IU/L,BNP803.4pg/mL,WBC14200/μg,CRP1.52mg/dL,心臓超音波検査(UCG)は前壁中隔部と下壁心尖部が無収縮であった。即日,経皮的冠動脈形成術にて♯6-7血行再開した。その後,ICUにて内科的加療となり,9月27日早朝に収縮期血圧80mmHgまで低下しVSPを認めた。大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入し,SIMVモードにて人工呼吸器管理となった。9月30日にLVFWRを認め,UCGにて心タンポナーデを確認し,緊急手術を施行した。手術は,胸骨正中切開にて開胸し,VSPはダクロンパッチにて閉鎖し,LVFWRは帯フェルトを用いて縫縮した。術後4日目にIABPは抜去し,右中下肺野に無気肺を認めた。術後5日目より呼吸理学療法を中心に心リハを開始した。術後13日目で呼吸器をCPAPモードに変更し,術後14日目でWeaningし,経鼻的酸素3L/minにてSpO295%以上保持し,一般病棟転棟となった。術後20日目に経鼻的酸素offにてSpO295%以上保持可能となり座位,車椅子移乗練習を,術後22日目に立位練習を,術後35日目に歩行器歩行練習,日常生活動作(ADL)練習を開始した。術後51日目に老人車歩行自立となり,術後61日目で自宅退院となった。週2回の頻度で医師,看護師,臨床検査技師と情報交換を行い,全身状態を確認し,運動時収縮期血圧130mmHg以下,安静時心拍数+20bpm,Borg scale13以下を運動基準として心リハを進めた。入院時より自宅退院までのWBC,CRP,LDH,歩行距離を評価しその経過をまとめた。【倫理的配慮、説明と同意】厚生労働省が定める「臨床研究に関する倫理指針」に基づき,患者に本研究の趣旨を文書にて十分に説明し同意を得た。【結果】LVDR発症時はWBC10400/μg,CRP7.34mg/dL,LDH551IU/Lであった。術後5日目はWBC9500/μg,CRP14.60mg/dL,LDH502IU/Lであった。術後20日目はWBC9000/μg,CRP4.06mg/dL,LDH258IU/Lであった。術後35日目はWBC7400/μg,CRP2.12mg/dL,LDH196IU/L,歩行距離20mであった。術後42日目はWBC7200/μg,CRP2.24mg/dL,LDH201IU/L,歩行距離60mであった。術後49日目はWBC6900/μg,CRP2.02mg/dL,LDH162IU/L,歩行距離120mであった。術後56日目はWBC7000/μg,CRP0.88mg/dL,LDH182IU/L,歩行距離150mであった。術後61日目はWBC5600/μg,CRP0.66mg/dL,LDH152IU/L,歩行距離300mであった。【考察】心タンポナーデの術後は,再破裂,多臓器不全症候群(MODS),縦隔炎などの合併症を併発するリスクが高く,予後不良症例が多いと報告されている。本症例は,入院時よりWBC,CRP,LDHが高値で,上記の合併症が懸念されたが,医師,看護師の適切な処置と早期の心リハ介入にて,それらを予防できた。WBC,CRP,LDHの減少に合せて,歩行距離を増加させることは,合併症の予防とADLの向上の観点から重要である。運動時収縮期血圧130mmHg以下,安静時心拍数+20bpm,Borg scale13以下での運動基準に加え,血液所見を経時的に確認し,段階的に歩行距離を増加することは,運動負荷に対する生体反応を捉え,安全にリハビリテーションを実施する上で重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】AMI後のLVDRにより心タンポナーデに陥った症例に対して,術後早期からの心リハは,ADLや運動耐容能の改善にとって重要であると考える。一方で再破裂,致死的な不整脈の出現などの合併症に留意しなければならない。今回,医師,看護師,臨床検査技師,理学療法士が連携しリスク管理を行うことで,早期より心リハの介入が可能となり,歩行距離の改善とADLの自立に至ったことは,心リハの更なる発展に有益な臨床結果であると考える。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2012 (0), 48101378-48101378, 2013

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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